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夜になり森のはずれの方で夜を越すことにした。森の中は野生動物がいるので安全確保のための森のはずれだ。旅をしている青年はどんな場所の野営にも慣れている。
マリオネットに枯れた枝を拾って来させて自分も焚き火ができるようなものを拾ってきた。火をおこし周囲に燃え広がらないよう注意しながら焚き火も最小限の大きさのものにする。
「この袋に水を汲んできてくれ。水の場所はわかるか」
皮袋を受け取ったマリオネットはうなずくなどの反応をせず踵を返すと森の中へと歩いていった。しばらく焚き火を眺めていた青年が空を仰ぐ。周囲に民家がないので真っ暗な中に無数の星々が光っている。
星の位置は方角を知るためには重要なものだ。特に行く所があったわけではないが同じ場所をぐるぐる回ったりしないよう方角をきちんと確認しながら道を進んでいる。
かなり時間が経ってからマリオネットが戻ってきた。袋にはたっぷりの水が入っており時間はかかったがきちんと役目を果たしている。
「ありがとう。マリオネットに礼を言うのも変かな」
マリオネットは道具だ。見た目は人間の形を真似ているが服など着ていないし個体によっては顔さえない。このマリオネットは目、鼻、口、耳ほぼ全てのパーツが揃っている。雑に作られていない、マリオネットが全盛期だった頃に作られたのだろう。
「人形師もかつてはたくさんいたけどね。今はもうほとんどいないんじゃないかな、趣味でいじっているような人くらいだ」
青年はゴロンと仰向けに寝転んだ。マリオネットはただそれを眺めるだけだ、人間の命令がなければ身動き一つしない。
「お前も空を見てごらん、綺麗だ。人が作り出す光景と違って空は等しく美しい」
青年の言葉にマリオネットは青年を真似て仰向けに寝転ぶ。ガラス玉の目に満天が映る。それはマリオネットが初めて見る光景だった。いつも目の前か足元だけを見てきて、捨てられてからは仲間たちの残骸ばかり見つめてきた。
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