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流浪の民
集落の中央にいた族長、ついでにハッカとモダもいる。こちらを見ると二人はぱあっと顔を輝かせた。
「直った! クク直った!」
「良かった!」
「さすがおっちゃん!」
「さすが暇なだけある!」
「暇だもんね!」
「やかましい、暇じゃねえよ」
なぜこの兄弟は余計なことを言うし二人同時にしゃべるのか。せめて交互にしゃべってくれと頭痛がしそうだ。その様子を小さく笑いながら見ていた族長に男は向き合う。
「この人形が他の人形も直せってうるせえから出かけてくる。荷物置いていくから戻るが、そろそろ移動するんだろう。動いていてくれ、追いかける」
「わかった。まあ少しゆっくり歩くとしよう」
族長はマリーを見る。バタバタ動いていたマリーだったが、族長と目があうと暴れるのをやめた。じっと男を見つめ、なんだか放してくれと言われている気がして男はマリーを地面におろす。
するとマリーは自分の腹をぺんぺんとかるく叩いた。腹の表面がぱこんと開き、小物入れのような空間がある。そこから取り出したのは。
「麦じゃねえか、すげえモン持ってるな」
今や種は高級品だ。一粒で食料三日分と交換できる。それを数粒取ると族長に渡した。族長は椅子に座っていたが地面にあぐらをかいて座り直し、両手を天に向かって差し出して一礼してからその粒を受け取る。普段うるさい双子の兄弟もあぐらをかいて同時に頭を下げた。
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