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厳かな雰囲気に男も無言だ。麦を受け取った族長はハッカとモダに麦を渡した。
「祭壇へ」
「はい!」
「はあい!」
二人は勢いよく走り出した。それを見送り、気になったので一応尋ねる。
「今のは?」
「守りの儀だ。ククから頂いた麦や種は命の源、皆を病や怪我から守ると言われている」
「ふうん、ここではそういう言い伝えなんだな。俺のところはそれを一人ひとり手に取って祈りを捧げてたけどな」
男も元々は別の流浪の民だ。一族が野盗に襲われてしまい生き残ったのは男のみ。マリオネットに関する言い伝えはあったが一族によって扱いが違ったようだ。流浪の民は移動し続ける為田畑を持たない。それを植えて育てる、という事はしないのだ。
「じゃあ行ってくる」
「ラーを一頭連れていきなさい」
「え、いいのか?」
家畜を連れていけという族長の言葉にさすがに男も驚いた。家畜は貴重だ、移動する時重い荷物を運び乳は貴重な食料、年老いたものはこれも貴重な食料として頂くのだ。一頭借りるというのは財産の半分を借りるのと同じくらい価値がある。
「ククがそこまで必死になるのなら大切な友人なのだろう。急いで行ってやれ。ククは大切にしなければいかん」
その言葉にマリーは族長の手を握る。族長も手を握り返して深く頭を下げた。都市部などに行くと手を握るのは挨拶だと言うが、流浪の民にとっての手を握ることは感謝や敬意だ。このマリオネットはかなり人間と、いや、流浪の民と共に過ごしていた時間が長かったであろうことがわかる。
男はラーにまたがりマリーも乗せるとマリーの示す方へと進み始める。最初は本当に方向があっているのかと不安だったが、違う方向へ進むとペしぺしと叩いてきたので確実にわかってはいるようだ。
マリオネットが走ってきたのならすぐ近くだと思い、日が落ちるまでには着きたいなあとのんびり考えている男は知る由もない、果てしなく遠いなどと。
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