町へ

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「まだかよ!」  集落を出てから何度目かわからない叫びをマリーは無視しながら走る。  おそらく半月以上が経った。ラーは早いが男もラーも夜は寝なければいけないのでそれほど速いペースでは移動できない。それが最初は理解できなかったのか、休もうものなら叩いてきたがそこは三回くらい怒鳴って理解させた。  ラーも四六時中移動していると疲れる。そのうちマリーはラーに乗るのをやめて自ら走るようになった。気持ちが()いているのかラーの負担を軽くするためかはわからない。  マリーの通る道は何もなく、男とラーの食料や水を確保するため少しルートを変えたのもまだ着かない要因と言える。おそらくマリーが通った道をそのまま行けばもっと早かったのだろうが、生き物とそうでない者の歩み方は違うのだから致し方ない。  マリーが走れば当然マリーの足も負担が大きくなる。調整が面倒だからラーに乗れと言ってもマリーは乗らずに走った。おかげで途中何度も調整することになる。下手だと判断されるとぺしぺし叩かれた。おかげで少しだけマリーの手入れは上手くなってきた。  季節はまだ冬だ、地を渡るにはあまりにも過酷な環境だ。幸い吹雪には一度も見舞われていないし比較的暖かい冬となった。雪もあまり降らないし木がある場所には豊富に木の実が落ちていた。それを集めて炒れば立派な食事だ。雪が積もっていたら探すのも一苦労だった。  何日もそうして移動を続けていると突然マリーが走る速度をあげた。なんだ、と思って遠くを見ると廃墟のようなものがうっすらと見える。おそらく町があったのだろう。戦争を逃れるため町を捨てて人々は西の帝都へと移ったと聞く。  人のいない町、村は男もたくさん見てきた。そこに向かって急いでいるとなると仲間はどうやらそこにいるらしい。改めてマリーが移動した距離を考えると凄まじい。男もラーを走らせて廃墟へと急いだ。
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