目覚め

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目覚め

 とてもゆっくりとした動作でシャムは目を開いた。目の前に何かがあるが黒い影となってうまく見えない。そもそも自分が目を開くことができたことに驚いた。もうとっくに壊れたと思っていた。  雪が降る中、風が吹く中を、うつ伏せのままただひたすら時が過ぎるしかなかった。マリーに見捨てられたと思って悲しんだがマネキンは涙が流れない。すすり泣く真似しかできない。それがまた悔しくて惨めで恥ずかしくて、どうしようもなく寂しかった。  何度か瞬きをしてよく見るとキラキラと光るものがある。太陽だろうが、月だろうか、それとも星だろうか。ぼんやりと眺めているとだんだんと焦点が合ってきて、それはとてもきれいなガラス玉だと気づく。  ガラス玉、ガラス玉があるのはマリオネットの瞳しかない。 「……マ、リー…?」  何とか声が出た。顔と顔がくっつきそうなほどに近い距離にマリーの顔があったので焦点が合わないわけだ。シャムの声にマリーがそっと顔を放す。  目の前にいるマリーにシャムは信じられない思いだった。なぜあの時行ってしまったのか聞きたい気持ちもあり、なぜ今ここにいるのかと聞きたい気持ちもあるが。それよりも何よりも。 「来て、くれた」  マリーにまた会えたことが嬉しい。もう二度と会えないと、一人惨めに壊れていくのだと絶望しかなかったから、やっと自分の最後の時はマリーに看取ってもらえる。一人じゃない、様々な思いがいっぺんに沸き起こって頭の中がぐちゃぐちゃになる。 「今度、こそ、い……しょ、に」  うまくしゃべれなくなってしまったが、ちゃんとマリーに伝えようとシャムは必死に口を動かした。するとマリーは聞いているのかいないのかシャムがしゃべっている途中なのに肩のあたりの服をつまんでくいくいと引っ張った。  その行動の意味がわからず思わず黙ってしまったシャムだったが、じゃり、という足音のような音が聞こえ耳を済ませる。 「遺言残しているとこ悪いんだがな、俺もいるんだわ」  知らない男はシャムの顔を覗き込んだ。目だけチラリと男の顔を見てシャムが冷たく言い放つ。 「誰」  シャムは、マネキンは人間が好きではない。冷たい言い方になるのは仕方ないのだが、男はまるで気にした様子もなくふてぶてしい態度だ。 「それは俺のセリフだ、お前は一体何なんだ。ちなみに俺はそこのマリオネットにひっぱたかれながら無理矢理連れてこられたかわいそうな人間だ」
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