巡り会った者達

2/2

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
 男は百四十八ページ目を開く。そこはマネキンの最も重要な駆動系統図が描かれていた。しかしその説明に関しては見たこともない単語が並んでいる。おそらく人形師にしかわからない専門用語だ。場合によっては技術を盗まれないために暗号化している物さえあると旅先で聞いたことがあった。 「専門用語が多くてわけわかんねーぞ」 「手足、弓で、動いてる」  弓から部品の一つ一つまで全て専門用語で書かれていて訳が分からなかったが、シャムの言う通り絵だけを見れば骨とは違う筋肉の役割を担っている部位があるのがわかる。それが弓だろう。しかし弓と呼ばれる物さえ十数種類書かれていて緻密(ちみつ)すぎる。わからない単語はシャムに聞こうとするがシャムは上手くしゃべれない。  その時マリーがルオの荷物から何か持ってきた。皮袋に入っているのは。 「おまえ、それ水じゃねえか。そいつは飲めないだろ」  しかしマリーはルオの言葉を無視してシャムの近くによると首に向かって水をちょろちょろと出し始める。水は非常に貴重で次どこで手に入るかの確証もない。ルオは止めようとしたがなんだかとても大切なことをしてるような気がしてグッと声を飲み込んだ。口に含ませるのではなく首にかけているのが気になったのだ。  かけた水は手のひらにおさまる程度の少しの量。したたり落ちるかと思ったが、首にかかった水はあっという間にしみ込んで消えてしまった。 「あ、あーあー。うん、大丈夫だ、声が出る。ありがとうマリー、僕がたまに首に水かけてたの見てたんだね」  マネキンは声を正常に出すために若干の水分を必要としている。通常の季節は問題ないが、冬のように乾燥した季節は喉の部分を水で湿らせる必要があった。表面を湿らせる程度の水分量でいいのだがマリーは微調整ができないのは仕方ない。  水袋をしっかり握ったままマリーはじっとルオを見る。無言の圧力に今日何度目かわからない溜息をついた。 「鬼教師が睨んでるから読み進めるぞ、わからん単語あったら聞くから答えな」 「ああ。あと喋れるようになったから直接説明もする」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加