花が舞い降る

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 シャムとマリーの旅は人とすれ違う事はなかった。シャムが歩いていく先はいつも人が住んでいない場所だ。 「この辺はかなり大きな戦争があったみたいで人が大勢死んだ。マリオネットから別の人形に切り替わっていたこともあって人々を守るものが何もなかったからだ」  もしマリオネットが残っていれば敵に向かって突っ込んでいき時間稼ぎができたかもしれない。しかしほとんどのマリオネットは売れなくなり価値がなくなったため大量にうち捨てられてしまった。ばらして焚き火の材料にもされていた。 「新たな人形は主戦力となった。配備されるのは戦いが激化している最前線、小さな村にわざわざ配備したりしない。結局富と権力を持つ選ばれた者だけが安全な場所で人形たちに守られる形となった」  シャムとマリーが歩いているのは大きな石が大量に地面に転がっている土地だった。自然の岩がむき出しになっているのではない。マリーよりも少し小さい大きさの石が見渡す限りどこまでも平原に続いている。 「ここは墓地だよ。マリオネットはそこら辺に捨てられてしまうけど人は死んだら墓を立てる。昔ここには戦いの最前線があったんだろうね。マリオネットも人形もなくて人が戦ったんだろう。その墓場だ」  てきとうな墓石の前で立ち止まる。墓を作り始めた時はきっと生きた年数や名前などが彫られていたのだろうがそれも間に合わなくなったのだろう。彫られているのは名前のみ。それもかなり雑な字だ。 「ここにはビリーって人が埋葬されているらしい」  墓は長い年月手入れをされている様子はない。おそらく残された者たちはこの村から撤退したのだろう。この地に埋葬された人たちはこの地に居続けるしかない。墓の周囲には数種類の花がどこまでも咲き乱れている。白、赤、水色、様々な色の花があちこちに混ざり合いながら。 「これだけ花が咲いているんだから、花を供える必要はなさそうだ」  シャムの言葉にマリーはシャムの顔を見つめる。シャムは足元に咲いている小さな白い花を一輪摘んだ。 「墓には花を供えるんだよ。僕はそういうの好きじゃないからやったことないけど。だってそこには誰もいないし」  マリーはしばらくシャムの顔を見ていたが自分の足元に咲いていた赤い花をいくつか摘むと、てくてくと歩き始める。マリーは自分から何か行動する事は最初の頃こそなかったがシャムと一緒に旅を続けシャムがあれやこれやと聞かせるうちに少しずつ自分で動くようになってきた。今も特にこうしろと命令を出していないのにマリーは自分で行動している。
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