花が舞い降る

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 マリーは墓石と墓石の間にある隙間に花をそっと置いた。シャムもそこに近寄ってよく見れば地面からわずかにマリオネットの残骸と思われる木の破片が埋もれているのが見える。 「マリオネットがマリオネットに花を供えるっていうのも不思議な光景だけど。マリーは、マリオネットは本当に仲間思いなんだな……人は人を見捨てるのに」  シャムの言葉にマリーはシャムを見る。シャムの顔は冷たいくらいに無表情だ。マリーはきょろきょろと辺りを見回し、近くに咲いていた黄色い花を摘むとシャムに差し出す。それを見たシャムは驚いた様子だ。 「え、なに? 僕にくれるの? 驚いた、励ましたり慰めるっていうこともできるのか」  マリーから花を受け取り、まじまじと見つめる。名前を知らない花だが凜とした姿は確かに見ていて穏やかな気持ちになる。  その時、ざあっと音を立てながら風が吹いた。突風くらいの強い風が、花や花びらを巻き上げながら吹き荒ぶ。空に巻き上げられた花びらたちは風に乗りながらゆっくりと降り注いだ。 「花の雨だ」  シャムも初めて見る光景に目を見開いた。色とりどりの花、花びらがふわふわと舞い、地に落ちてはまた風に吹き上げられて舞う。 「こんな風景もあるんだな、墓地だというのが信じられない」  ふとマリーを見た。マリーはその光景をじっと見つめている。シャムがマリーの顔に自分の顔を近づけて、マリーの目を見た。  ガラス玉で出来たマリーの目は、舞い踊る花びらの風景をそのまま映し出している。 「マリーの目は真実そのままを映すね。感情とか情緒とか関係ない、ありのままの光景を」  それが綺麗で感動するのか、異様な光景と考えるのか、見た者の解釈の数だけ景色には数がある。 「僕の見てる景色とマリーの見てる景色は同じなのかな」  見ているものは同じ。しかし見えているものが同じとは限らない。マリオネットの目に映る世界というのは果たして美しいのだろうか、殺伐としているのだろうか。マリーは世界を美しいと思っているだろうか。
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