第二話 エルフを抱いたのは初めてだった。

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 俺は後ろからエルフを抱きしめている。息遣いが荒い。整うまでしばし待った。  アルノリアが小さく笑った。 「朝からこんなことしたら、起きられないよ」  俺はふんと鼻を鳴らす。 「起きなきゃいい。金は入ったんだし、一日くらい寝て過ごせ」 「いいの?」  俺は顔をしかめる。 「『いいの?』てのはなんだ?」  するど奴は頬を赤く染めた。 「だって、一日寝て過ごすって……。あれ以来してなかったし、『待たせて悪かったな、今日はたっぷり愛してやるからな』っていう意味でしょ?」  なんだ、こいつのこのバカさ加減は。チラチラ見るな、気持ち悪い。 「お前の頭には花でも咲いてるのか?」 「じゃあ、どういう意味?」 「言葉の通りだ。金は入った、今日は休み。寝たきゃ寝ろ」  アルノリアは唇を尖らす。 「それだけ?」 「それだけだ」  俺は舌打ちする。 「ヤらないとは言ってないがな」  付け足すと、バカエルフは急に機嫌をよくした。 「だよね! じゃあ、今日はゆっくり、心ゆくまで、ベッドで過ごそう」 「いや、俺は飯を食う」 「なんでだよ! 休もうって言ったじゃないか!」 「飯は食う。腹が減ったんでね。お前がどうするかは勝手だ」  アルノリアはしばらくむくれていたが、そのうち言った。 「俺と結婚する気になってくれた?」  俺は口をへの字に歪める。 「まだそんなこと言ってるのか。知り合って一週間もしない奴と結婚なんざするわけないだろう。特にエルフとはな」 「そのエルフとヤってるの誰だよ!」 「そうだ、俺とお前はヤってるだけ。愛し合ってるんじゃない」  この言い合いは疲れる。俺は奴を離し、ベッドを下りた。 「待って、俺も」  起きられないと嘆いていたわりに、アルノリアは手早く身体を拭いて服の乱れを直した。 「ご飯は俺が奢るよ。何もしてないのにお金もらっちゃったし」  その点については異論はない。このエルフ、路銀には困っていなさそうだ。  食堂で飯を食いながら、俺は前から疑問に思っていたことを訊くことにする。 「お前のその喋り方はなんなんだ? 『俺』なんていうエルフ聞いたことないぞ」 「オークの本をいろいろ読んでるうちに、かっこいいなって思って、真似するようになって……こうなった」 「お前の同胞はさぞ嘆いただろうな。高貴なエルフが『俺』だなんて」  アルノリアはぐっと詰まった。痛いところを突いたらしい。  何もかも常識外れな奴だ。本をいろいろ読んだというからには、頭はいいんだろう。その反面、見たこともないくらいのバカだ。  わざわざ同胞に嫌われるようなことをするなんてな。  部屋は二階、食堂は一階だ。食事を終えて部屋に戻ろうと、アルノリアが先に階段を上がった。ふと見上げると、かたちのいい尻がぷりぷり揺れていた。  むしゃぶりつきたくなるような尻だ。  ああ、くそっ。俺は自分の下半身に目をやった。朝の一発じゃ足りなかったか? それともこのエルフが相手だからか? 何を元気になっていやがる。  そういえば……。俺は若干の苦さとともに思い出す。こいつはまっさらの初めてだと言ったが、俺は商売(・・)以外とするのが初めてだった。仕方がないだろう? オークは嫌われ者の上、身体もモノもでかい。同族以外で相手をしてくれるといえば、商売をしている者くらいだ。彼らは優しくて、親切だ。それが仕事。  そのオークが、エルフと。しかも向こうから「どうぞ」と。  よくわからんエルフだ。愛だの、恋だの、結婚してだの。基本的に、オークにははっきりした婚姻形態がない。女オークと適当にヤって、生まれた子は母親の傍で育つ。だから父親の違う兄弟がゴロゴロいる。それがオークだ。  ついでにいえば、同族以外とヤるなら同性がいい、なんてのも多い。俺もそうだ。これはオークの習性らしい。  結婚? 結婚ねえ。くだらん。ヤりたいって欲求なら、よくわかるが。  アルノリアが振り返った。 「どうかした?」  ちょうど階段の一番上まで来たところだ。奴の尻は見えなくなって、きれいな顔が俺を向く。  何が嬉しいんだか、にこにこしやがって。  俺は奴の横に並び、尻をぐっと掴んだ。 「ひゃっ! 何っ?」 「さっさと部屋に入れ。寝るんだろ?」  アルノリアは顔を輝かせた。 「うん!」  これは絶対に、そっち(・・・)の意味の「うん!」だな。  俺もそっち(・・・)の意味で言った。
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