第三話 立て続けに口説かれた。

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 さて。  ゴグと出会って、そろそろふた月。  彼とは上手くいっている。ほとんどの夜、時には朝も昼も、愛し合っている(ゴグは「ヤっているだけ」と言うけれど)。俺はどんどん彼を好きになって、どんどん溺れていくみたい。この先の人生をずーっと彼と過ごしたい。好き。大好き。  仕事も順調。もともと俺は路銀に替えられる宝石とかいろいろ持ってきていたから、基本的に金に困ることはない。俺の仕事はゴグの傷や疲労を癒すこと。ゴグは強いから、何もやることがない時も多い。だから、ほかのこともしようかなと思って治療所に出向いてみたりして、街でも割合に顔が売れてきた。エルフは目立つから。  つまり、俺は時々、ゴグから離れて単独行動を取るようにもなってきた――ということ。  彼は歓迎している、と思う。少なくとも文句は言わない。その一方で俺だけ置いて街を出るなんてこともないから、認めてくれているんだと思う。  これって、通じ合ってきたってことだよね。彼は俺を信頼してくれている。結婚しないって言っているのは、照れ? 本心では、いつ「わかった」って言おうか考えているんじゃない? ふふふ。 「今日は運搬の手伝いにいく」  朝食の席で、ゴグが言った。 「お前は来なくていい。すぐ終わる。街の中だし、どのみちエルフじゃあなんの役にも立たない」  まあ、基本的にエルフは肉体労働には向かないから、この言い草も仕方がない。 「俺は宿で待ってるね。気をつけて行ってらっしゃい」  こうやって送り出すの、新婚さんみたいだなあ。  ゴグが嫌そうな顔をした。 「何をにやにやしてるんだ」 「してないよ。愛する人をお見送りするっていいなあって思ってただけ」 「お前はいい加減、その花まみれの頭をどうにかしろ」  花なんかついていない。彼は時々「お前の頭には花しか詰まっていないのか」みたいなことを言うけれど、全く意味がわからない。頭の中には花なんか咲かない。 「じゃあな、バカエルフ。おとなしくしておけよ」  そんな台詞を吐いて、ゴグは出かけていった。  俺はどうしようかな。治療所は昨日行ったし、結構な数の怪我人や病人に治癒魔法をかけたから、今日はもういいかな。俺はただの手伝いだし。単独でできるほかの仕事を探すのもいいけれど、ゴグに言われた通りおとなしくしておくのもいいかも。  昨夜も激しかったし。  ついつい思い出してしまい、頬が緩む。昨夜の行為も嬉しくて恥ずかしくて気持ちよくて、幸せだった。俺が彼のを口でした(・・)んだ。彼のモノは大きくて、俺の口には入りきらなかったけれど、頑張った。「そこだ」ってゴグが言って、言われたところを舐めると、「イイ(・・)」って、セクシーに彼が囁いて……。  幸せ……。  俺の中には彼しかいない。花が咲いているとしたら、ゴグのかたちをしているんだ。  俺は妄想し始めた。彼との結婚式。エルフは基本的に繁殖のためにしか行為しないし、結婚も同様だ。でも、俺は人間方式の婚姻を是としたい。死がふたりを分かつまで愛し続けるという、誓いの儀式。男同士でも女同士でも男女でもいいらしいし、とっても合理的で素敵だ。  当然、そんなの同胞が認めるはずない。ゴグの場合も同じだろう。というか、ゴグは故郷を追われているんだっけ。だったら、なおさら、ふたりきりの式がいい。立会いはほかの種族にしてもらえばいいし、華やかじゃなくたって、彼と結ばれるなら俺は幸せ。  俺はほうと息をついた。
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