第三話 立て続けに口説かれた。

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「お前、厭味なんて言えたんだな。ただのアホかと思っていたが」  聞かれていたんだ。聞かれたくなかった。  俺は気まずく口を開く。 「その……、だって、あいつ、ゴグのこといろいろ言ってきたから。ゴグと、俺のこと。それで、腹が立って……。俺のこと、嫌な奴だと思った?」 「思った」 「ひどい!」 「エルフなんてそんなもんだ。どいつもこいつも厭味が得意で、他人を貶すようなことしか言わない」  ここでゴグは、俺を横目で見た。 「お前は違うのかと思ってたが」  俺はうなだれる。俺だってあんな言い方好きじゃない。でも、言い返さずにもいられなくて。  ゴグは小さく舌打ちした。 「何を言われたとしても、言わせておけばいいだろう。くだらん。たいしたことじゃない」 「だけど、嫌だったから。ゴグのこと、悪く言われたくなくて……」 「どうでもいい」  俺は余計なことをしちゃったんだろうか。  小さくなる俺の頭を、ゴグがぐいと掴んだ。そのままぐしゃぐしゃと髪を乱された。 「お前の頭の中には花だけ咲いてるんだろ? いつものように『オークが好きなんでーす』とでも言っておけ」  これは、もしかして、慰めてくれているのかな? もしかしなくても、そうだよね? 気にするなってことだよね?  俺は顔を上げた。 「そうだよね!」  ゴグがちょっと顔を歪めたのは、納得いかなかったけれど。  彼と一緒にいる時には、ほかの誰も寄ってはこない。ああいうことが起こるのは、俺ひとりの時だけみたいだ。これからは充分気をつけなくちゃ。  ――エルフがオークにヤらせるくらいなら、俺にもヤらせてくれよって……。  宿の主人の言葉が頭に蘇る。  まさか、襲われたりなんてしないよね? 不安になってきた。 「呪符でも身につけようかな。意に添わぬ行為を強いられたら、相手に呪いがかかるやつ……」 「そんなものがあるのか」  ある。ただし、値は張る。 「どんな呪いだ?」  ゴグが気にしている。  俺は神妙に答える。 「勃たなくなる呪い」  彼はものすごーく、心の底から、不愉快そうに喉を鳴らした。 「ゴグにはかからないよ! 俺が嫌だって思う相手の時だけだから。あっ……、ゴグにはむしろ、俺と離れられなくなる呪いを……」 「おい、やめろ」 「冗談だよ。そんなことしなくたって、俺はゴグから一生離れないもん」 「ふざけるな」  俺たちは食事をとり、身体を洗った。浴室は部屋とは別にあって、俺が先に入り、ゴグがその後に入る。俺は一緒でもいいのに、彼が嫌だって言うんだ。照れ屋さん。  部屋に戻って、ベッドに横たわる。 「この街にはずっといるの?」 「さあな」  ゴグはそっけなく言い捨てると、寝返りを打った。  俺としては永住してもいいし、どこか違う終の棲家を求めて旅立つのもいい。彼と一緒なら、どこへでも行く。  眠くなってきて、俺はうとうとし始める。今日は変な一日だったなあ……。立て続けに口説かれた。変な奴らに。あ、違った、レイエードの方は口説いてきたんじゃないんだっけ。どっちでもいいけれど。  いままさに眠りにつこうとした時、不意に抱き寄せられた。首筋を甘く噛まれる。 「あっ……、何、急に……」 「勃たなくなる呪いをかけられる前に、ヤっておこうと思ってな」  俺の同じところに、ゴグのモノが当たっている。すごい。もう硬い。 「ゴグにはかけないって言っただろ」 「どうかな。お前のことだから、『ほかの奴とはできないようにしてやる!』なんて言ってかける恐れがあるだろ」  俺はあっと声を上げそうになった。 「その手があっ――」 「ない。やめろ」  ゴグは俺の唇を奪った。舌が入ってきて、胸をまさぐられる。 「ん……、ん、んふ……」  呪いなんてなくたって平気だよね。俺はゴグが好きだもん。
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