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「お前、厭味なんて言えたんだな。ただのアホかと思っていたが」
聞かれていたんだ。聞かれたくなかった。
俺は気まずく口を開く。
「その……、だって、あいつ、ゴグのこといろいろ言ってきたから。ゴグと、俺のこと。それで、腹が立って……。俺のこと、嫌な奴だと思った?」
「思った」
「ひどい!」
「エルフなんてそんなもんだ。どいつもこいつも厭味が得意で、他人を貶すようなことしか言わない」
ここでゴグは、俺を横目で見た。
「お前は違うのかと思ってたが」
俺はうなだれる。俺だってあんな言い方好きじゃない。でも、言い返さずにもいられなくて。
ゴグは小さく舌打ちした。
「何を言われたとしても、言わせておけばいいだろう。くだらん。たいしたことじゃない」
「だけど、嫌だったから。ゴグのこと、悪く言われたくなくて……」
「どうでもいい」
俺は余計なことをしちゃったんだろうか。
小さくなる俺の頭を、ゴグがぐいと掴んだ。そのままぐしゃぐしゃと髪を乱された。
「お前の頭の中には花だけ咲いてるんだろ? いつものように『オークが好きなんでーす』とでも言っておけ」
これは、もしかして、慰めてくれているのかな? もしかしなくても、そうだよね? 気にするなってことだよね?
俺は顔を上げた。
「そうだよね!」
ゴグがちょっと顔を歪めたのは、納得いかなかったけれど。
彼と一緒にいる時には、ほかの誰も寄ってはこない。ああいうことが起こるのは、俺ひとりの時だけみたいだ。これからは充分気をつけなくちゃ。
――エルフがオークにヤらせるくらいなら、俺にもヤらせてくれよって……。
宿の主人の言葉が頭に蘇る。
まさか、襲われたりなんてしないよね? 不安になってきた。
「呪符でも身につけようかな。意に添わぬ行為を強いられたら、相手に呪いがかかるやつ……」
「そんなものがあるのか」
ある。ただし、値は張る。
「どんな呪いだ?」
ゴグが気にしている。
俺は神妙に答える。
「勃たなくなる呪い」
彼はものすごーく、心の底から、不愉快そうに喉を鳴らした。
「ゴグにはかからないよ! 俺が嫌だって思う相手の時だけだから。あっ……、ゴグにはむしろ、俺と離れられなくなる呪いを……」
「おい、やめろ」
「冗談だよ。そんなことしなくたって、俺はゴグから一生離れないもん」
「ふざけるな」
俺たちは食事をとり、身体を洗った。浴室は部屋とは別にあって、俺が先に入り、ゴグがその後に入る。俺は一緒でもいいのに、彼が嫌だって言うんだ。照れ屋さん。
部屋に戻って、ベッドに横たわる。
「この街にはずっといるの?」
「さあな」
ゴグはそっけなく言い捨てると、寝返りを打った。
俺としては永住してもいいし、どこか違う終の棲家を求めて旅立つのもいい。彼と一緒なら、どこへでも行く。
眠くなってきて、俺はうとうとし始める。今日は変な一日だったなあ……。立て続けに口説かれた。変な奴らに。あ、違った、レイエードの方は口説いてきたんじゃないんだっけ。どっちでもいいけれど。
いままさに眠りにつこうとした時、不意に抱き寄せられた。首筋を甘く噛まれる。
「あっ……、何、急に……」
「勃たなくなる呪いをかけられる前に、ヤっておこうと思ってな」
俺の同じところに、ゴグのモノが当たっている。すごい。もう硬い。
「ゴグにはかけないって言っただろ」
「どうかな。お前のことだから、『ほかの奴とはできないようにしてやる!』なんて言ってかける恐れがあるだろ」
俺はあっと声を上げそうになった。
「その手があっ――」
「ない。やめろ」
ゴグは俺の唇を奪った。舌が入ってきて、胸をまさぐられる。
「ん……、ん、んふ……」
呪いなんてなくたって平気だよね。俺はゴグが好きだもん。
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