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アルノリアがむにゃむにゃ言って起きた。俺は椅子から身を乗り出した。
「大丈夫か?」
「え? 何が?」
俺は迷った。こいつはなんにも気づいていないんだ。話していいものか、どうか。
ひとまず流すことにした。
「いや、さっきは無理させたかと思ってな」
するとエルフ野郎は、変な含み笑いを漏らした。
「無理させただなんて、そんな。無理させたくなるほど俺が欲しかったんなら仕方ないよ」
「お前はバカだ」
と、ついいつも通り言ってしまった。
だが、あんなことが今後も起こらないとは限らない。俺はアルノリアに服を投げた。
「着ろ。出かけるぞ」
「どこに?」
「呪符を買え。前に言ってただろう。身を守るためのやつだ」
「どうして? 嫌がってたのに」
俺は嫌がったのは、それで俺がこいつをヤれなくなることだ。呪符自体はどうでもいい。
「俺が四六時中張りついていられるわけじゃないからな。自分の身くらい自分で守ってもらわないと困る」
なんでこれをいま言い出すんだ――とか、こいつが疑問を言ったら仕方がない。全部話そう。
俺はそう覚悟を決めたが、こいつはこいつで別に思うところがあったらしい。
「やっぱり、そうかな。ご主人にも言われてたんだよね。ゴグといない時は結構危ないって」
なるほど。前に変なエルフに声をかけられていたことを言っているのか。いい流れだし、乗っかろう。
「そういうことだ」
「わかった。お風呂行ってくるから、ちょっと待ってて」
身体を洗い、アルノリアが軽く食事をとるのを待って、俺たちは市に出かけた。なんと呪符も普通に市で売られているのだそうだ。ただし店頭には出しておらず、注文を受けた呪術師がその場で作る。盗まれると大事になるからだそうだ。
「こちらの意に反していやらしいことをされそうになったら、撃退できるようなものが欲しいんです」
アルノリアが言うと、年老いた呪術師はじろりと俺を見た。
おい。撃退する相手は俺じゃないぞ、このクソジジイ。
「あんたの意志によるということだね?」
「はい。私が受け入れない相手に対して発動するものにしてください」
「どんな罰にするかね?」
「勃たなくなるようにしてください!」
そこはこだわりどころなんだな。
呪術師は渋った。
「嫌がる相手を無理に襲うような奴が、あんたが原因で勃たなくなったと知ったらどうすると思うね?」
「どういうことですか?」
アルノリアの奴にはわからないようだが、俺にはわかる。
「絶対にお前を殺しにくるぞ」
「えっ? そうなの?」
「絶対だ」
俺の断言に、アルノリアも理解したようだ。
「そうか……。どうしようかな。怪我をするくらいのものなら大丈夫?」
「そうだな」
アルノリアはジジイに向き直った。
「ちょっとした怪我にしてください」
「よかろう」
呪術師は一枚の紙札を指で挟み、口の中でぶつぶつ呪文を唱えた。札に複雑な文様が浮かび上がる。
魔法の仕組みは俺にはわからん。それでも、こういう技を見ると感心する。これが効くっていうんだからすごい。
「使い方はわかるね?」
呪術師が言い、呪符をアルノリアに渡した。アルノリアが金を払う。
高い。こいつ、結構な金額払ったな。
「どうやって使うんだ?」
何も知らない俺が訊く。
「こうするんだよ」
アルノリアは呪符を鎖骨の中心、胸骨の上端あたりに押し当てた。
俺は目を瞠った。呪符が燃えてなくなり、アルノリアの肌に文様が赤く浮かび上がったのだ。その文様も、少し経つと消えた。
呪符を見につけるといっても、どうやって持ち運ぶのかと思っていたが……こういうことか。
「数か月はもつよ。その頃にまた買って更新する」
「本当に効くのか? つまり、俺には効かないってことでいいんだな?」
「うん。そのはず」
アルノリアはふふっとかわいらしく笑った。
「試してみたら?」
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