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ゴグとふたり、二階に上がった。
部屋に入った瞬間、ふっと妙な刺激を感じた。気がついたら俺はベッドに倒れていた。
ゴグが俺を押さえている。
俺はびっくりして、呼吸するのも忘れて彼を見つめていた。
――至近距離で見てもかっこいい……。
一応言っておくと、間近に迫ってもゴグは全然臭くなかった。それどころか、いい匂い。晴れた日の草原のような。
――俺のゴグはいい匂い……。
素敵な発見だった。勝手に俺のとか思ってしまったことは別として。
が、その俺のゴグは、怪訝そうな顔で言う。
「おい」
俺はぼんやりしたまま返す。
「はい……」
「なんで抵抗しないんだ?」
抵抗? 抵抗って、なんだっけ?
頭がぼうっとして、混乱していた。顔が熱い。この状況ってなんなんだろう? 俺はどうすればいい? 胸がどきどきどきどきして、死にそうに興奮しているけれど、どうしたらいいのかがわからない。
なんで抵抗しないんだ――ってことは、もしかして、抵抗しなきゃいけないってこと?
俺はがばっと起き上がった。
「すみません、不慣れなもので、気がつきませんでした。そういうのがお好みなのですね?」
「は?」
「わかりました。やり直しましょう。ちょっとどいていただいて」
俺はゴグの腕を抜け、ベッドに座り直した。
「どうぞ。私も覚悟を決めますので」
「はあ?」
「ですから、どうぞ。今度は上手にいたします」
「そうかよ」
彼は俺の肩を掴み、再び倒した。
俺は身をよじる。
「ああ、そんな。だめです、やめてください」
彼の手が、ちょっと止まった。
俺はすがるように彼を見上げる。
「いや……、初めてなんです……」
「なんの真似だ?」
あれ?
「嫌がるところを無理やり、という感じがお好きなのでは? 抵抗せよとおっしゃいましたよね?」
「お前はバカか?」
なんなの、この反応。間違えちゃった?
「あのな。俺が言ったのはそういう意味じゃない。オークに押し倒されて、怖くないのかと訊いたんだ。犯されてもいいのか?」
犯される……犯される……こんなかっこいいオークに……。
「わ、私、あなたがしたいとおっしゃるのなら、構いません」
「なんだと? お前は頭がおかしいのか?」
うん、聞き慣れた台詞だ。
「私は……、実は、昔からオークに心惹かれておりまして、長年こうなったらいいなと考えてきました」
ゴグの顔が引きつった。なぜ。俺を襲ってきたのはそっちでしょうよ。
「変な奴だな」
彼は俺の顎に触れた。
「初めてだって言ったな。あれも演技か?」
「いえ、本当に初めてです」
そもそもエルフは生殖目的でしかそういうことをしないから、「子がいない」はそのまま「経験がない」だ。
「それでまるで抵抗しないのか? お前はいったいなんなんだ」
「ですから、こうなることをずっと夢見て……」
「異常だ」
そんな、ひどい。
だが、ゴグは俺の上からどくでもなく、脇腹に手を這わせてきた。いとおしむようにベルトを撫でる。
「引き裂きたいが、そういうわけにもいかんな」
これは本気なんだろうか。それとも冗談? 冗談を言いそうなタイプにも思えないし、そういう状況でもないのだけれど、どちらかよくわからない。
本気でするつもりなのか、それともふざけているだけなのか。
「脱ぎましょうか?」
試しに言ってみたら、彼は俺の襟をつかんだ。
「いや。脱がせるのも悪くない」
俺が着ているのは、数枚の薄い布を縫い合わせて重ね、腰のベルトで留めた一般的な泉の森の衣装だ。要するに貫頭衣に近いワンピースである。下着は着けない。
透き通った白い肌と、頂の小さな朱色の突起が見えてしまう。
露わになった朱色の尖りに、彼は吸いついた。
「あっ……!」
ちょっと怖い。それ以上に嬉しい。
「結婚してください……」
俺は囁いた。
ゴグが顔を上げる。
「そういえば、最初にそんなことを言ってたな。聞き間違いかと思ってたが」
「本気です。これはひと目惚れというものだと思うんです。結婚してください。あなたのものになりますから」
「今日初めて会った相手にか?」
「きっとこれは聖神の……じゃなかった、魔神の思し召しです。私があまりにもオークと出会いたいと強く願っていたから、聞き届けてくださったんですよ」
「都合のいい解釈だな」
喋っている間に、彼は俺の乳首を摘まんでいた。こりこりとひねられて、そこか硬くしこると同時に下腹部が疼く。
「あ……ん、だめ……」
「それはさっきの演技の続きか?」
「違います……」
嫌だって言っているんじゃない。そうやって乳首を弄られていると、だんだんたまらなくなってきて……もっと恥ずかしいことを口にしてしまいそうだから、「だめ」。
ゴグはにやりと笑った。
「敏感だな。変人エルフ」
「なんですか、その呼び方……、んぁ……っ」
彼が俺の胸を舐めた。ふっくらした乳輪を舐め回し、突起を転がして、甘く噛んだ。
あんな牙があるのに、こんな繊細な愛撫ができるなんて。
「はぁ……ん、あん……」
「胸を弄っているだけだぞ。それでこんなに喘ぐなんて、呆れた奴だ」
「だ……って、乳首……」
「乳首がこんなに感じるなんて知らなかったか? エルフは高貴な自分たちには性欲なんぞ存在しないと思ってるらしいな。傲慢な奴らだ」
「それは教義で……あっ」
彼はまた俺の乳首をねぶった。唾液が垂れて濡れるほどに。もう片方は指でつねられ、弾かれて、ひりひりする痛みと熱に襲われていた。
腰が浮いてしまう。
ゴグがめざとく気づいた。彼は俺の裾から手を忍ばせてくる。
膝。腿。そして……。性器に触れられ、俺はびくりと身体を震わせた。
「こんなに硬くして……。ちょっと触られてこれなら、興奮した時はどうしてたんだ? 自分で抜いたのか?」
「そんなこと……、恥ずかしくて言えません」
「抜いたんだな。エルフのくせに自分でするなんて、異端と言われても仕方ない」
彼はにやにや笑いながら、俺の陰茎を握った。上下に動かされる。大きくて分厚いてのひら。自分でするよりも、ずっと強い刺激。
「あ……、はぁ……っ」
「ひとりでする時は何を考えてたんだ?」
「そ、それは」
「オークに犯されることか? 俺のような醜いオークにぶち込まれたいと思ってたんだろう?」
「醜くなんかありません! こんなかっこいいオークに出会えるなんて自分の幸運に感謝しています! 書物で見たのよりずっとずっと素敵で、見ているだけでどきどきするんです!」
「お、おう」
ゴグがだいぶ引いた。
だって、本当のことだもん。俺はオークを醜いなんて思ったことは一度もないし、ゴグは俺が夢見ていた理想のオークよりも数段かっこいい。かっこいいばっかり言いすぎてバカみたいだけど、本当のことだから。
「全く、変なエルフだ」
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