輝やく未来のために

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「でもその事で、もう自分なんて この世にいなくてもいいやって思ったんです」 担任が嘘をついたことで更に自暴自棄になった。他人への不信感は酷くなり、病院を出たら本当に死んでやろうと思っていた。 「そんな僕の前に現れた拓は、一番になれと言ったんです。『僕に悪さする全ての人に、何も言わせないくらいの強くていい男になれ』と。みんなが、僕を卑下しても、一番になって見返せという人はいなかった。 拓は初対面なのに心にズカズカ入って来た。その厚かましさが凄く嫌だったのに、なぜか 拓といると心地が良かった……拓は僕をひとりの人間として扱ってくれ、生きる道を示してくれた……彼に恋をしていると気付いたのは東京に行ってからでした」 そんな辛い事、俺だったら泣きながら話したかもしれない。だが、悠馬は吹っ切ったようにさらりと話し、俺の手をそっと掴んだ。 「僕は男が好きだからじゃなく、拓だから愛したんです。でも、お父さんの気持ちとしては、息子さんに子供がいる未来を望んでいたはず……それは叶えられないけれど、僕は、生涯をかけて彼に愛を捧げます」 「悠馬……」 悠馬は、父の気持ちに寄り添ったあと、俺の家族にまで愛を宣誓した。彼の温かい手に心のあったかさが伝わってくる。 「そうだったの……あなたがうちの病院に運ばれたのも、きっと神の導きだったのかもしれないわね。我が息子ながら、拓はいい男でしょう?素敵な息子が増えたじゃないの……あなた」 土鍋を持った母は、肩を竦ませにっこり微笑んだ。
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