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「あ~、もうこの写真は消さなきゃな」
「どうして?」
不思議そうにのぞき込む悠馬の前で、残しておいた莉麻の写真を表示させた。ここ、美瑛の観光地で撮った写真ばかり、ふたり、満面な笑みで寄り添っているお気に入りの写真だった。
「綺麗な人だね。元カノ?」
「ああ、結婚したかったらしい。なぁ、悠馬。どう答えればよかったと思う?何年待たせるか分からないけど待てとでも?…俺たちはその時、22だったんだぞ。俺なんか医大生だ」
「拓兄…」
あんなに消せなかった5枚の写真は、あっけなく無くなった。未練がましく消せなかった写真、悠馬がいてくれてよかった。年下の男に女々しいと思われたくなくて思いっきり消すことが出来た。
悠馬は、テーブルに肘をつき頬に手を当てたままジッとスマホの画面を見ていた。
「何も言わなくていい。僕が……彼女だったら待つよ。あなたが言ってくれるまで」
どきっとする。
あなたが…だなんて、自分に言われたのかと錯覚してしまう。だが、真面目な男だ。俺が問いかけた答えを考えていてくれたのだ。悠馬の瞳は、俺をまっすぐに見つめていた。
「両想いというだけでも、贅沢なことなのにね」
両想いへの憧れ、この子は、片思いをしている……ちょっと先輩の勘だ。目尻を少し下げ、俺を見つめる眼差しは恋する人に思い馳せているように甘く熱く、そして真剣な眼差しだった。
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