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中型免許を取って6年。福山 拓の相棒であるオフロードバイク CRF250は、森を抜け丘陵地帯へと入っていった。
「気持ちがいい~」
青く澄み渡る大空、西の空には入道雲。そして、空の下まで続くなだらかな丘陵の緑と黄金色や赤褐色の小麦、それはパッチワークの様に彩られ、心地よい風に揺らされながらさわさわと音を立てている。観光雑誌などに載せられている代表的な美瑛町の夏の風景だ。
北海道内でも景色がいい場所はたくさんある。だが、札幌から3時間かからないこの富良野町から美瑛町は、林の中を行くダートから景色の良いオンロードまで楽しめるツーリングルートだった。
「しばらく見納めになるかな。この景色」
来年2月に行われる医師国家試験に合格し、札幌の大学を卒業すれば、母方の叔父が経営する東京の病院に臨床研修医として行く予定になっている。いわゆる、”可愛い子には旅をさせよ”という父の方針だ。いずれは、実家でもある札幌済州会病院を継ぐ。中学、高校、大学と、小さい頃から設けられたレールの上を俺は順調に進んでいるつもりだ。全てに一番だと教育された結果かもしれない。
今日は林道を中心に走り、十勝岳温泉で湯に入った。今日明日とゆっくりするつもりで美瑛町にある宿に泊まるため山道を下りている。湯に入ってリラックスし過ぎたせいか、身体はとても疲れていた。
「もう、5時か」
白樺の林を抜けると緑の丘陵地帯が広がった。
真っ白に輝く入道雲。その湧き上がり続ける雲に引き寄せられるように、バイクはパッチワークの路を突き進んだ。
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