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食卓には 家庭料理が並んでいる…いつもよりも品数が多いのは悠馬のため。男たちがつまみを食べ酒を飲み始めると、母と紗智は石狩鍋を準備するためにリビングから出ていった。
父はキッチンの様子を伺うと、悠馬に酒を勧めた。何か嫌なことを言うつもりなのかもしれない。主任から貰った三重の酒、これでちょっとご機嫌になって欲しいものだけど、そうもいかないようだ。
「紗智から聞いて、君が有名な芸能人だとは分かった。だが、そんな凄い人が、なぜうちの息子を好きになった?芸能界には、もっと顔のいい男がいるだろう」
「父さん…いろいろと失礼だな…自分と同じ顔だということをお忘れなく」
「だから、もっととつけただろう」
「まったく」
うちの父は仕事熱心で情は熱いのに、気に入らないことには とことん口が悪くなる。
悠馬は「大丈夫」と言いながら 注がれた酒をひと口で飲み干す。そして、父の酒器を受け取りお猪口に注いだ。
「僕は中学の頃校舎から落ち、済州会病院に入院していた伊藤悠馬です。当時はお世話になりました」
「え?君が……あの時の子供だって?」
「ちょ…悠馬、どうしてそこまで言う必要が」
悠馬は、左腕を出す。バンクルをずらすと幾筋ものケロイドを作っている傷が現れた。
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