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「ふご…っ!」
自分のいびきで目が覚めた。ガバッと起き上がると「いた…」腕を庇った。
「……ここ…美瑛荘?」
そこはソファーで、のぞき込んでいたふたりがびっくりしたように身体を反らした。
「心配したわよ!!バイクで転んだ後 寝てるって、どんな神経してるのよ」
長い黒髪をくるりと束ねエプロンを着ている40代くらいの女性と隣にいる髭を蓄えた男性には見覚えがあった。男並みのさっぱりとした性格のユースホステルのマネージャー 郡山 英恵と夫の郡山進次郎だ。
「おかみさん。だんなさん……すいません」
「キタキツネが飛び出してきたんでしょ。でも、打ち身だけでよかった。おかえり、拓」
「俺の事覚えてたんですか?」
驚きだった。6年前の夏に2週間ほどこのユースホステルを手伝っただけなのに覚えてくれていたのだ。
「あ……当たり前でしょ。うちに手伝いに来てた莉麻と仲良くなって結婚したのよね?」
「あ…」
懐かしい名前に、刹那思い出が蘇る。
「いえ、結婚もしてないし、一昨年別れました」
苦笑いしながら頭をかいた。
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