313人が本棚に入れています
本棚に追加
「バイクは、無事だよ」
彼は、見た目と同じく、ぶっきらぼうな口調の愛想ない返事をした。
彼の手に持たれたタオルは真っ黒に汚れていて、バイクの周りには、工具箱とたくさんの草が散らかっている。悪いところを見て綺麗にしてくれたんだろう。
「ありがとう。助けてくれて……それにメンテナンスまで」
「いや…別に」
多くは喋らずふいと顔を反らし道具を片付け始めた。工具を拾おうとする彼の手の甲には、真新しい傷があり血が滲んでいる。
「おい、血が出てる…。何やってんだ、洗わないと化膿するぞ」
「ちょ、いい…」
手に触れると、そいつは避ける様に腕を引いた。
「いいじゃない。ばい菌が入ったらどうするんだよ」と言いながら、バケツに入れられていたホースを引き出すと水道の蛇口を捻った。
「ちょっと、貸せ」
彼の手の甲に水をかけ汚れを洗い流す。離れようとする彼の手を引っ張りその手を洗った。石鹼を使ったからなのか彼の眉間には深い皺が寄っている。
綺麗になるとバイクの後ろに乗せていた道具箱からガーゼを取り出し拭き上げ、そして、傷テープを貼り付けた。
「風呂に入っても大丈夫なやつだ。残りは君にやる。剥がれたら、貼りなおせよ。なんだか、あちこち傷だらけだな」
新しい傷とは別に彼の手や腕には傷の痕や内出血の後があった。きめの細かい綺麗な肌だというのに、なんだかもったいない。
「ほら、受け取れよ」
「あ…うん。ありがとう」
彼は耳の際まで赤くし、恥ずかしそうにうつむくと俺の差し出したテープを受け取った。
最初のコメントを投稿しよう!