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4.視線の先は
※真鍋視点
あの人の存在を知ったのは偶然だった。
と言っても、前後のことは余り覚えていないのは、今思えば軽くパニックになっていたのだろう。
その日体調が悪かった俺は、大学内で少しふらついた拍子に教科書や筆記用具を地面にぶちまけていた。
そこに居合わせたあの人が、さすがに無視はできないとばかりに黙って教科書を手渡してくれた。
「すみません、ありがとうございま――――」
お礼を口にしながら顔を上げると、童顔の男子学生が苦笑しながらこちらを見ていた。
ただ、それだけのはずなのに。
見降ろされる感覚に何故だか背筋が震え、目が合った瞬間、全身に血が駆け巡るような衝撃を受けた。
Domだ――――
それ以上でも以下でもない、その事実だけが俺の本能を支配した。
「大丈夫ですか? 」
大丈夫……とは言い難いが言えるはずもなく、とにかく全身の力をかき集めて頷いた。
「じゃあ、これ」
彼は残りの教科書も拾って手渡してくれたあと、何事もなかったかのように踵を返す。
俺はしばらくその場に立ち尽くしていたが、気が付くと何故だか全身の気怠さが軽くなっていた。
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