4.視線の先は

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   Sub――それが俺の第2の性だった。  支配される快楽? 冗談じゃない、俺にはそんな趣味なんてない。  頭ではそう思っていても、本能には抗えないらしい。  成長期を過ぎて高校生にもなると、時折り原因不明の体調不良に見舞われるようになった。  いや、原因不明ならそうであってほしかった。  つまりはSub性としての欲求不満による体調不良ということだった。  好きでSubになったわけでもないのに、ふざけるな。  そもそもほとんどの人間はNormalで、Subというだけでかなりの少数派だ。  全く友人がいないわけではなかったが、そこまで踏み込んで相談できるほどの相手はいない。  同じ高校の中にはDomであろう学生も見かけたが、揃いも揃って高圧的で、とても仲良くなりたいタイプではなかった。  俺がSubだと悟られては、間違いなく玩具にされる未来が目に浮かぶ。  Domとのマッチングサービスやそういう店に行くことも考えなかったわけではない。  しかし今まで出会ったDomの奴らのイメージが悪過ぎる上に、下手に知り合いに遭遇するリスクが怖くて利用する気にはなれなかった。  結局俺は、定期的に軽い抑制剤を服用することで、Sub性を隠しながら日常生活を送っていた。  元々目つきが悪いと言われていた顔は、自覚があるほどには余計に険しくなっていた。  Subとして支配されるよりはマシだと考え、性欲を満たせばどうかと女を抱いてみたり、あるいは男相手も試してみたりもした。  それでも心の奥底にあるSub性というコンプレックスがどこまでも付き纏うだけだった。  性欲だけが満たされたとしても、それとこれとは別だと悟った俺は、結局誰ともうまく付き合うことができなかった。  被支配欲という心の欲求が、愛のないセックスで満たされるはずなんてない。  今になって思えば当たり前の話だが、当時はなりふり構っていられる余裕なんてなかった。  結局何をやっても虚しくて、誰も俺のことを知らないところに行きたくて。  どうにか勉強だけは諦めず、地元から離れた大学に進学した。
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