6.ゼロ距離

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 あれから2〜3日ごとに、真鍋がうちにやってくる。  元々は図書館で課題を……なんて言って律儀に迎えに来ていたのだが、この暑さに耐えかねて、それでも会いたいという彼に根負けして家に上げてしまってからはなし崩しだった。  とはいえ普段部室で過ごす時間が僕の部屋に変わったという程度の話であって、今のところ特別大きな変化はないと思う。 「先輩、おはようございます」 「おは…………んっ………」  そう、例えば挨拶代わりに軽いハグとキスをされたりとか、座卓を挟んで向かいに座ってたはずが気付いたら隣に並んでいたりとか、さり気なく腰に手が回され身体を引き寄せられたりとか……その程度の変化があったぐらいだと思う。  最初は戸惑ったものの、好意を向けられているのは案外嬉しいもので、満更でもなく心地良いとさえ思ってしまう自分がいた。  ただ、僕が同じように気持ちを返してあげられるかどうかは僕自身もまだわからない。  だから…………遠慮気味に寄せられる唇を受け入れたあとの、熱の籠もった視線と妙な静けさがいたたまれない。 「あ、えっと…………」 「先輩」  気まずくなって何か話さなければと思ったが、被せるようにして真鍋が口を開く。 「本当はもっと触りたい。でも今は、俺を受け入れてくれただけで十分嬉しいです」 「あ…………うん…………」 「でも、俺、めちゃくちゃ我慢してます」  ごめん、やっぱりそうだよな……  全部受け止める覚悟もなければ拒絶し切れない自分ももどかしい。 「だから…………褒めてくれますか?」  え………? なんて…………? 「ふふっ、ははっ…………そんなこと? は……お前、可愛いな……!!」  罪悪感でしんみりしていたところに何を言い出すかと思えば、いきなりそんなことを言われて思わず脱力して、口元が緩む。  いや……いきなりというわけではない。  彼は最初からそう言っていた。 「ごめん、あんまり可愛くて……。うん、僕のこと気遣ってくれて、我慢して、いい子だな(Good boy)!」  そう言うと真鍋は一瞬目を大きく見開いて、それから僕の肩に顔を埋めて大きく息を吐く。 「はぁ……先輩…………ほんとそういうとこ…………」  なんだかよくわからないけど、これで良かったんだよな?  うん、可愛いやつだな。
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