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この場所の存在に気付いたのは、最初は偶然だったのだが、ここだ、と直感のようなものを感じた。
ふらふらと引き寄せられて、気が付いたら扉を叩いていた日が懐かしい。
わずか数人の先輩たちは、穏やかに歓迎してくれた。
集まってくるのは似たような気質のメンバーで、積極的な勧誘はしていない。
ただ年に1〜2人、僕と同じようにふらっとやってきた学生が所属していくのだという。
そんな自然な空気に惚れ込んで、気付けば僕も3年目だ。
メンバーの大半を占める4年生の先輩たちはほとんど大学には来ていないし、最近は僕が部室を独占している日も多い。
――やっぱり今日も、僕が一番乗りだ。
窓を開けると、遠くに聞こえるセミの鳴き声や、運動部の声に夏を感じて不思議とホッとする。
そんなゆったりとした時間の流れに身を任せ、のんびりとパンを齧っていると、人の気配がして扉が開かれた。
「おつかれさまです」
「あ、おつかれさま〜」
僕に次ぐ部室の住人、後輩の真鍋だ。
簡単な挨拶だけを交わして、彼もまた定位置に腰掛け教科書をぱらぱらと捲りはじめる。
同じ部屋に二人でいても、無理に雑談をする必要がないこの距離感。
それが許されているこの空間が、僕にとっての落ち着く場所だ。
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