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2年の真鍋は、当時1年だった去年の秋頃に突然入部してから約半年、既にこの部屋の住人としてすっかり馴染んでいる。
彼も例に漏れず、本を読んだり昼寝をしたり、静かに過ごしていることが多い。
一見すると、三白眼の鋭い目つきで口数も少なく、近寄りがたい印象なのだが……実際はよく気が付くし礼儀正しい、よくできた後輩だ。
それに、改めてよく見ると綺麗な顔してるんだよなあ……
なんてついついぼんやり眺めていると、こちらに気付かれ目が合ってしまった。
「先輩、どうかしました?」
「あ、ごめんね、次も試験?」
「はい、でも次で終わりです」
「そっか、がんばってね…………あ、そのあとって、予定ある?」
僕は何故だか名残惜しい気持ちになって、柄にもないことを口走っていた。
「いえ、特には……」
「じゃあさ、打ち上げしない?……ここで、ちょっとだけ」
口元でコップを傾ける仕草をしつつ、そんなことを言ってみる。
彼の三白眼が一瞬だけ見開いて、すぐに細められた。
「いいですね、ぜひお願いします」
あ、今笑った?
彼の表情はものすごーくわかりにくいのだが、ときどき嬉しそうな顔で笑うのだ。
この笑顔を引き出すのが僕たち上級生の楽しみだなんて……本人に知られたら笑ってくれなくなりそうだから、言わないけれど。
ともあれ、今日はいい日になりそうだ。
「やった、じゃあ最後の試験、がんばってね」
「はい、楽しみにしてがんばります」
「じゃあ、適当に準備して待ってるね」
ついつい顔が緩むのを抑えきれないまま、数時間後の楽しみな予定に思いを馳せていた。
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