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「もう大丈夫ですから」
僕が真鍋を抱き寄せる体勢のまま、どれだけ時間が経ったのかはよくわからない。
やがて彼はゆっくりと深呼吸をして僕の肩を押し上げ、再び真っ直ぐな視線がぶつかり合った。
そうだ、さっきはこの顔が近付いきて、キスを……されたのだと思い出すと……どうしよう、ちょっとドキドキしている僕がいる。
「先輩はまたそうやって……本当に自覚ないんですね」
「え……?」
はぁ……と苦虫を噛み潰したような表情でため息をつかれてしまう。
「いや、いいです。いいですけど……先輩、俺のこと結構好きですよね」
ドキリとした。
キスをしたからか、それとも……
「えっと……後輩としては大好きだけど……」
「キスしても、逃げなかった」
「ん……びっくりしたけど……嫌ではないっていうか…………」
「それでいいです。もう、ここまでしておいて、逃がすつもりはないので」
言い返す前に、本日何度目かわからないキスで唇を塞がれたのは、僕が何と答えようと関係ないという意思表示なのだろう。
どちらにしても返せる言葉なんて見つからなかったと思うから、彼に流された僕はちょっとずるいのかもしれないな。
先ほどのように試すわけでもなく、責めるわけでもない。
吹っ切れた真鍋の今度のキスは、蕩けるように甘くて全身の力が抜けていくようだった。
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