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言い当てられた驚きと少しの喜びと戸惑いから朱里が落ち着くまで、彼は玄関に座り、朱里の横で待っていてくれた。そして朱里が謝ると、彼は「ええよ」と笑った。
「明日、学校おいでや。森野さん、休んどるけ、勝手に図書委員にされとった。まぁ俺も図書させられとるんやけど、明日、初委員会の日やから来て欲しいねん」
立ち上がった彼は穏やかに言って、朱里も立ってうなずいた。
「良かった、俺、図書委員とかって柄やのうて…」
彼がビクッとして、言葉を切り、朱里は目を丸くした。
ガチャリとノブが回り、朱里の母が「ただい…」と口を開いて遠藤少年を見た。一瞬声を失い、すぐに眉がつり上がる。
「何してるの!」
「や、何も。帰ります」
彼は慌ててドアを押し開けて走って出て行く。朱里は彼に何か言いたかったが、母に押し戻されて何もいう余裕はなくドアを閉められた。
「何してるの」母は朱里を軽蔑するように見た。「学校を休んで、あんな子…誰なの?」
朱里は家の中に入りながら、母の怒りに油を注がないように言葉を選んだ。
「同じ学校の子。明日の連絡、してくれたの」
「何なの? 連絡なら女子でいいじゃない。どうして男子を行かせたりするのかしら。常識知らずな担任ね」
仕事先で苛立つことでもあったのか、母はいつもに増して不機嫌だった。
「同じ委員会で…委員会の連絡だったから」
「電話でもできるじゃない。わざわざ家に来なくても」
朱里は母に気づかれないよう小さく息をついた。
「そうだね。今度からそうしてもらうようにする」
そう言うと母もようやく彼への文句を終わらせてくれた。
朱里は母の甘い香水の香りを感じながら、彼からはちょっと違う匂いがしたなと思った。
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