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 遠藤家の四人の子どものうち、成績が奮わないのは宙ぐらいだった。  そういう意味でも宙は自分は他のきょうだいみたいに、いい大学に行って親に楽をさせられる仕事には就けないなと中学生の頃から思っていた。きょうだいで一番容姿端麗な姉はモデルをしながら国立大学法学部に通い、将来は中小企業に優しい弁護士になるらしいし、体格も良く、運動能力の秀でた兄は、野球バカであると同時に、高校時代からアメリカ留学してビジネス何とかを学んでいる。妹は中学三年生ながら、宙なんて足元にも及ばないぐらいの理科知識を持っていて、完全に理系頭脳を発揮している。  宙はそんなきょうだいに囲まれ、自分もそういう力を持っていると中学ぐらいまでは思っていた。が、中学二年ぐらいでしっかりと理解した。自分にはものすごい力なんてなく、普通に平均的に、あるいは平均よりもちょっと下ぐらいの力しかない。そもそも学力だって姉や兄、妹の情熱ほどには自分は頑張ってこなかったし、彼らのように小さい頃からコレだけはというものもなかった。きっと自分は両親を激しく喜ばせることはない。地味に毎日、ちょっとだけ喜ばせるぐらいがせいぜいだと思った。そのためには実業高校はうってつけだったのだ。  宙に他のきょうだいと違うところがあるとすれば、水の抵抗を受けにくいということだった。他の人が水をどのように感じているか理解しきれないから何とも言えないが、宙にとって水は敵ではなく空気の次にそばにある自然なものだった。泳ぐことを覚えてプールから離れていても、夏休みにはプールや海へ行ったし、秋になって寒くなるまで水と戯れ続けた。たまに冬でも無性に泳ぎたくなり、池に飛び込んで親に死にたいのかと怒られたこともある。  これについては、保育園の頃からの幼馴染である直斗が解説してくれた。  中三のとき、思い切って水に関する自分の感覚が他の人と違うみたいだと話してみたら、直斗はいろいろな科学的なことを調べてくれた。生物はそもそも水中から進化しており、宙が水に入らないと寂しく思うのは奇妙でもなんでもないと言った。詳しい話は専門的でよくわからなかったが、何となく自分がとんでもなく奇妙じゃないらしいと知って、宙も気楽になった。宙にとって、中学時代は激しい波に襲われた時期だったが、頭のいい直斗に救われた部分は大きく、彼が南高へ進学するのは当然のこととはいえ、ちょっと寂しかった。
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