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 彼が階段を下りていき、朱里はしばらく待ってから自分も階段を少し下りた。彼の気配がなくなっているのを確かめ、エレベータで戻るか階段を下り続けるか考えた。そして踊り場から外を見て、朱里は小さく息をついた。私、そういえば死にたいと思って上に上がってきたんだった。  明日。  そう思うだけで朱里の気持ちはまた暗くなった。もう明日を考えるのは嫌だ。  踊り場のコンクリート柵は胸まであって、乗り越えるにはちょっと力が必要そうだった。朱里は椅子がいるなと思った。何か台代わりになるものが。家に引っ越しのダンボール箱は山ほどあるけど、あれで台になるかな。  台を取ってこようと階段を下りようとして、朱里は下から来た誰かにぶつかりそうになった。勢いよく上がってきていた相手の頭が胸に当たる。足元がぐらついた。 「キャァ」と小さく言ってしまい、頭が真っ白になった。  気づいたら、どういうわけか遠藤少年が顔を押さえてうめいていた。朱里が足を踏み外しそうになったところを、下から上がってきた彼が支えてくれて、ぶつかったのはわかった。踊り場で腰を折っていた彼は、いててと言いながら体を起こす。朱里の方はほとんど怪我もなく、膝を擦りむいた程度だった。 「ごめんなさい! だい…じょうぶ?」  朱里が聞くと、遠藤少年は片方だけの腕にひっかかっていたリュックを引き寄せ、それから手すりを持って立ち上がった。ぽたっと鼻から血が落ちる。それを見た朱里は息を飲んだ。 「ごめん」彼は手で鼻血を押さえた。その手にも擦り傷が見え、朱里は白っぽく汚れた学生服と血を見てめまいを感じた。
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