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ガキの話に付き合っていられるか。
たまの休みに俺は歓楽街に出かける。夜のかましい雑踏は色とりどりのネオンがかき消してくれる。馴染みの店に入るまでに何人もの男に声をかけられたが、俺はすべてに対して無視を通した。
高嶺の花といえば聞こえはいいが、我ながら嫌な男だと思う。
それでいて自分の魅力を自分自身で理解しているため、俺は誘われる側でなく、誘う側だとわかっている。端的に言えば、男漁りが大好きなのだ。
「織弥ちゃん、今夜はどうしたの?」
行きつけのゲイバーのママは俺より一回りほど年上だが、見た目は若々しくこの俺にも匹敵するほど美人だ。悔しいほどに。それは俺の周りに集う女性客の視線を集めている点からしても明白だろう。黄色い声ほど煩わしいものはない。
「ママさあ……」
「ん? なあに?」
「俺はこの店だけをひいきにしてるんだけどさ、いい加減に会員制にでもしてうざったいの締め出してくれないか」
「ならあんたが他のとこ行けばいいでしょ」
「嫌だよ。どうしてこの俺が俺の都合以外で動かなければならないんだ」
「あいかわらずワガママなんだから」
「たまには甘えさせてくれよ」
「お断りね。あんたを甘えさせてくれる金持ちの男でも探しなさい」
「そうしたら俺仕事しなくてもいいかな」
「……もしかして仕事の悩みでもあるの?」
ハイボールを差し出しながら、ママは小首をかしげる。絵になる人だ。俺の好みではないが、ママがネコでなければ一度は寝てみたいと思っている。これは本音だ。
「織弥ちゃーん」
「痛っ」
ママの強烈なデコピンが俺の額を直撃する。
「お酒は美味しいうちに飲んじゃいなさいよ」
「悪かった。ごめんな、ママ」
「やけに素直じゃない。そのまま悩み事もぶちまけちゃいなさいよ」
「……よくある話さ、ノンケのガキに告られただけだ」
「あらあら」
「うざったくてしょうがねえ」
「その子はあんたの高校の生徒?」
「ああ。頻繁に授業抜け出しては保健室にサボリに来る」
「込み入った話だけど、その子は本当にあんた目当てにサボってるの? 学校が嫌でとかストレスがとかの悩みで、あんたに助けを求めているんじゃあないの?」
「いや、それはないな」
「即答……」
「ママだってわかるだろ? 相手が本気かどうかって。そいつの目を見たら簡単にわかる」
「まあねえ……」
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