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「昨日はすみませんでした」
翌日の放課後、柴田が保健室に現れた。
授業をサボることなく放課後に来たことに成長を感じるが、俺は早く帰りたくてしょうがない。だが帰り支度をする手を止めてしまうほど、柴田の声は真剣みを帯びていた。
俺は手近にあった丸椅子を引き寄せ、腰を下ろすと、入り口から動こうとしない柴田を手招いた。
「入ってこい。てきとうに座れ」
「……はい」
柴田は入り口近くのソファーの片隅に腰を下ろした。
やけに素直だ。張り合いがない。ムキになって突っかかってきた今までのほうが、相手をしていて面白かった。
「用件はそれだけか?」
「はい」
「俺に謝罪しに来たのか?」
「はい」
「へえ……」
「すみません」
「……いや、俺も悪かった。お前にあたってしまった」
アルコールが入っていたとしても、昨晩の態度は子供じみていた。
「柴田、前に俺がお前に言ったこと覚えているか?」
「どうして先生と付き合えないかってこと、ですね」
「そうだ。考えてみたか?」
「……オレなりに考えました。でも納得いくってか、フ? に落ちる? っていうか……その、とにかく自分なりの答えが出なかったんです」
「ほお……」
「でもオレ、やっぱり先生のこと諦められません」
「気持ちは変わらないのか?」
「変わりません」
「お前は俺を抱きたいのか……?」
「先生が、その……嫌じゃなければ……」
「ふうん……」
ああ、こういうやり取りは面倒臭い。
答えを教えてやるべきか。
柴田はきっと答えを提示したところで、それでも気持ちを優先するだろう。
あまりにも純粋すぎるから。
それが彼の首を絞めている。
「柴田、お前の気持ちはよくわかった。俺も正直に話そう。俺はお前のことが嫌いじゃない。男が好きなことも、男と寝ていることも本当だ。だからこそ柴田、俺はお前の気持ちを受け入れられないんだ」
「……オレのこと、嫌いじゃないんですね。嬉しいです。でもダメなんですね」
「ああ」
「なんでオレじゃダメなんですか……」
「俺が罪に問われるんだよ!」
「え……?」
「いいか柴田。お前は高校生。未成年だ。そうだな?」
「はい」
「対して俺はアラサーの大人だ。理解できるか?」
「何か問題でも?」
「さっきも言ったが、未成年に手え出したら、たとえ合意だろうが大人の俺が罪に問われるんだ。それはお前も困るだろう?」
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