微熱未満の恋

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「――という甘酸っぱいやり取りがあり、俺はクソガキをなだめることができたのでした。めでたしめでたし」 「めでたしじゃないでしょ、織弥ちゃん」  あれから無事に三年が経った。  柴田はよほどの怪我や病気でない限り、保健室に来なくなった。  俺も俺で柴田を他の生徒と同じように接しようと心がけた。  だが心がければ心がけるほど、柴田を意識してしまっていた俺もいた。  腹立たしいことに。  俺は男遊びをやめていた。柴田が我慢するのならば、俺も俺でケジメをつけないとダメだと思ったからだ。  とはいえ憂さ晴らしの場は必要なので、行きつけのBARには定期的に通っていた。 「めでたしだろ? 俺もクソガキもあれから接触していない。ママのアドバイス通りにな」 「とはいえ織弥ちゃん三年もどうやって処理していたの?」 「そりゃあ、自分の右手で」 「……あんた、本当に大人になったわね」 「俺だってもう三十過ぎだからな」 「織弥ちゃん、あんたが初めてうちに来た日のこと覚えてる?」 「高校……いや大学くらいか?」 「そうそう。あんたが男と不倫して修羅場になった頃よ」 「懐かしいな。あったなあ、そんなことも……」  当時の俺は真面目に大学へ通っていたものの、同じくらいの情熱を男遊びに捧げていた。  出会い系に登録しなくとも、その手の通りをうろついていれば簡単に相手が見つかる。  身体さえ差し出せば金をもらえるし、俺も性欲を発散できて、一石二鳥のバイトだと高をくくっていた。 「店の前にあんたが倒れていたのを見たときは、どうしようかと思ったわよ」 「そうか、殴られたっけな俺。あのクソおやじに」 「織弥ちゃんの綺麗な顔が腫れていたのよ、あのとき。相手が近くにいたら、あたしぶん殴っていたわね」 「ママは過激だなあ」 「でもあんたに逢えてよかったと心から思っているのよ」 「俺もこの店を知れてよかったよ」 「あたしのことは?」 「ママのことも愛しているよ」 「ほんと、口だけなんだから」 「そういうわけじゃないさ……」  ママには感謝してもしきれない。  ガキの頃から今までずっと面倒を見てもらっている。  ところで俺にはひとつ、気になることがあった。 「なあ、ママよお」 「なあに、織弥ちゃん」 「俺、最後にここ来たの昨年末だろ? 年明けてからは初めて来たが、なんつーか、客減ったのか?」
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