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「失礼な。気づかないなんてあんたも鈍感ね。あたしも考え方を変えたのよ」
「どういう?」
「昔あんたが言ったのよ。この店を会員制にしたらどうかって」
「あー言ったなあ、そういえば」
昔はノンケの男だけではなく、興味本位で飲みに来る女どもがわずらわしくてたまらなかった。誰がどこで飲もうが関係ないことだが、ここはゲイバーだ。俺たちを酒のツマミにするような単細胞ばかりで、店の品位が下がっていた。
会員制にすれば、少なくともママの認めた客しか来ないだろうし、店の敷居も上がる。なにより、見世物にされる不快感とおさらばできることが最大の利点だった。
「今月から会員制になったから、あんた後から会費払いなさいよ。その分、わずらわしいノンケや鬱陶しい客は来ないから」
「そりゃありがたい。ゆっくり酒が飲める」
「ただ新規の会員は紹介制だから、あんたにたかる輩が増えるかもしれないけどね」
「おい、ふざけんなよ」
「冗談よ。でもね、あたしもひとり織弥ちゃんに紹介したい人がいるの」
「俺に?」
「ふふ、きっと喜ぶわよ」
そのとき、ドアに取り付けられたベルがカランと鳴り、来店客の存在を報せた。
「ああ、いらっしゃい。待ってたわよ」
かすかに香るアルコールの匂い。すでに飲んできたのか。
「ママよお、俺はサプライズは嫌いなんだぜ」
来店客が誰かなんて聞くまでもない。
彼は俺の隣のスツールに腰を下ろすと、自分も彼と同じものをと注文した。
そういえば今日は成人式だったな。
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