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「休んでんだよ」
「違うって。ほら、趣味とかさあ、どっか遊びに行くとかねえの?」
「お前らほど暇じゃねえんだよ」
「ふーん」
ふーんじゃねえ。早く出ていけ。
体温計を片付けながら柴田に背を向けるが、まったく帰る気配を見せない。
「帰れって言ってんだろ、クソガキ」
「ガキじゃねえ」
「俺から見たらケツの青いガキなんだよ」
「先生、オレ先生のこと好きです」
「知ってる」
「そうそう知って……えっ」
「知ってるぞ、柴田。お前がこの俺目当てでサボってることは目に見えている」
「ええっ、そんな、オレ……オレ……オレの態度ってそんなにわかりやすかったっスか?」
「無自覚だったのかよ」
「自覚してるよ! オレ、篠川先生のこと好きだ!」
「……だから?」
「だから?」
「柴田。お前が俺を好きなのは知ってる。大人をなめんなよ。だから訊いたんだ。お前が俺に告って、それからどうしたいんだ?」
「……な、何も考えてなかった」
「あっそ」
ただのガキだ。自分の気持ちを伝えるだけ伝えて、その後の結果までは想定していない。
さて、どうやって断ってやろうか。
柴田は男子校にありがちの幻想をこの俺に抱いているだけだ。
全寮制だから女と出会う機会が圧倒的に少ない。
だから同じ学内で欲求を満たそうとする。
こいつの場合は相手が年上の養護教諭なのが悪かった。
生徒同士なら何も問題はなかったのに。
「柴田、お前のためにきっぱり言ってやる。お前の想いは受け入れられない。以上」
「以上って……オレ達、付き合えないんですか?」
「付き合えない」
「チューできないの?」
「チューできない」
「じゃあセックスは?」
「一番ダメだろ」
「そんなあ!」
「逆に俺が断っているのに色々できると思っているお前の思考回路が気になるわ」
「男同士だからっスか? オレのダチのダチでも付き合ってるやつらいますよ。なんでオレはダメなんですか」
「それくらい自分で考えろ。まあ答えが出たとしても無理なもんは無理だがな」
「先生、オレのこと嫌い?」
「俺は全生徒に対して対等に接しているからな。お前だけを特別扱いできないんだよ」
「じゃあさ、先生。学校の外だったらどうなの?」
「外でもダメ」
「……オレ、まったく望みないんですね」
「ない」
ここまで言えば伝わるだろうか。
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