微熱未満の恋

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「柴田ぁ……」 「はいっ」 「頭上げろ」 「上げません」 「いや上げろや」 「上げませんっ!」 「……このクソガキが」  柴田の頭へ手を置き、わしゃわしゃとなでてやる。柴田の髪は見た目に反して存外柔らかかった。例えるならば柴犬だろうか。安直だが。堅そうな毛足のわりに触れてみるとふわふわとしている。いや、ふわふわではないな。 「先生?」 「犬みたいだな、お前」 「……犬でもいいっス」 「お前は人間だろ」 「そうっスね……」  チャイムが鳴る。柴田と押し問答をしている間にひと授業終わったようだ。  午前の授業がすべて終わり、俺としても昼休憩に入りたいのだが、傷心モードの生徒を放っておくのは養護教諭としての矜持に反する。 「午後までには教室戻れよ。置くのベッド空いてるから」 「いいんスか?」 「俺の気が変わらないうちに寝とけ」 「……ありがとうございます」  なんだ。普通に礼言えるじゃないか。  クソガキからガキに昇格してやろう。  換気のために開けていた窓から夏の気配を帯びた風が流れこみ、俺の髪をさらった。
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