24人が本棚に入れています
本棚に追加
「柴田ぁ……」
「はいっ」
「頭上げろ」
「上げません」
「いや上げろや」
「上げませんっ!」
「……このクソガキが」
柴田の頭へ手を置き、わしゃわしゃとなでてやる。柴田の髪は見た目に反して存外柔らかかった。例えるならば柴犬だろうか。安直だが。堅そうな毛足のわりに触れてみるとふわふわとしている。いや、ふわふわではないな。
「先生?」
「犬みたいだな、お前」
「……犬でもいいっス」
「お前は人間だろ」
「そうっスね……」
チャイムが鳴る。柴田と押し問答をしている間にひと授業終わったようだ。
午前の授業がすべて終わり、俺としても昼休憩に入りたいのだが、傷心モードの生徒を放っておくのは養護教諭としての矜持に反する。
「午後までには教室戻れよ。置くのベッド空いてるから」
「いいんスか?」
「俺の気が変わらないうちに寝とけ」
「……ありがとうございます」
なんだ。普通に礼言えるじゃないか。
クソガキからガキに昇格してやろう。
換気のために開けていた窓から夏の気配を帯びた風が流れこみ、俺の髪をさらった。
最初のコメントを投稿しよう!