微熱未満の恋

7/15
前へ
/15ページ
次へ
「あいつは俺を美化しているだけだ。周りに女がいないから俺で代用しようとしているだけだ。ただ夢を見ているだけなんだよ」  俺に好きだと告白した柴田の瞳は高揚して……いたっけ。  あれ、どうだっけな。  記憶が曖昧になっている。 「織弥ちゃん。それであんたは何て答えたのよ」 「お前の想いには応えられないって答えた」 「それってさあ、織弥ちゃん。どういう意図で言ったの?」 「意図だあ?」 「断る理由はいくつかあるでしょ。単に好みじゃないとか、そもそも相手がノンケの時点で望みがないとか」 「ああ、それねえ。あいつがクソガキだからだ」 「なるほどね、相手が未成年だから断ったのね」 「そりゃそうだろう」 「じゃあさ織弥ちゃん。相手が成人していたらOKしていたの?」 「……さあ」  考えたこともなかった。 「さあって何よ」 「それすら考えてなかったってことだ」 「なら考えてみて。相手の子がもしハタチ超えていて、あんた好みの男だったら応じていたのかしら」 「あのクソガキがか……」 「この際年齢は無視して、どうなのよ、ぶっちゃけ。良い男なの?」 「……悪くはない。年のわりに言動が幼いが、顔と身体は文句ない」 「ならその子が大人になるまで待ってみたら? 案外良いパートナーになれるかもよ」 「おいおい冗談だろ。相手は俺の生徒だぜ」 「あんたはただの保健室の先生でしょ」 「俺の学校の生徒って意味だ」 「同じでしょ」 「節操なしの俺だってノンケに手を出す気はさらさらないさ」 「……織弥ちゃん。大人になったわね」 「大人じゃねえよ。大人だったらもっときっぱり断るわ」 「そうそう断って――え、断ってないの?」 「断った。断ったが……」 「もしかして、絆されちゃった?」 「さあ。どうかな……」  柴田が俺に告白してから今日で一週間近く経つ。その間、柴田は一度も保健室に来なかった。  俺にフラれたことに傷心したままなのか、顔を出しづらいのか、その理由はわからない。ただ登校はしているようだ。その事実が妙に癪にさわった。 「とにかく……」 「なあ、ママ。俺はどうすればいい?」 「あんたの心に素直になりなさい」 「俺の心ねえ……」 「それが難しいなら、さっさと特定の相手見つけなさい」 「俺は遊んでるくらいがちょうどいいんだよ。そういうママはどうだ? 決まった相手いんの?」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加