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「いたりいなかったりね。少なくとも織弥ちゃんよりは大人な恋をしているわよ」
「大人の恋……っ」
「……あんた今笑ったでしょ」
「笑ってない」
「その点、きっと相手の子のほうが大人といえるわね。あんたよりも本気で向き合おうとしているじゃない」
「それは否定できねえな……」
柴田のまっすぐな態度はひねくれた俺にとって眩しすぎる太陽のように熱く、照らされる身としては焼き焦がされそうだった。
きっと柴田の中では相手がゲイだとかノンケだとか、そういう次元じゃなくて、この俺だからこそ――厚かましい言い方だが、惚れてしまったんだろうな。
三年C組。柴田直樹。十七歳。引き締まった肉体に精悍な顔立ち。そのくせ子犬のような丸い瞳。この俺より背が高いくせに、柴田の瞳は常に上目遣いで俺を見てくる。水泳部のエースで、スポーツ推薦で大学を狙っている。学食の生姜焼き定食が好き。勉強は不得手で追試の常連組。
柴田に告白されて一週間、これだけの情報が増えた。
――先生、オレ先生のこと好きです。
「酒豪のあんたがたった一杯で酔っちゃったの? 顔が赤いわよ」
「……そうだな」
「もうあたしがあんたに言うことはないみたいね。こんなところでウジウジしていないで、さっさと帰りなさいな」
「なあ、また来てもいいか?」
「あたしはいつでも歓迎よ、織弥ちゃん」
「……ありがとな、ママ」
店を出ると街はまだ活気があった。時刻を確認すると、まだ十時前。正直飲み足りない。だからといって別の店で飲み直す気分でもない。さっさと帰るか。
東口に向かって歩いていると、思いがけない人物に出会った。
「……篠川先生?」
ああ、間が悪すぎる。
「先生どうしてこんなところで……」
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