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一枚目 鏡の中
ガチャッ
城の如く大きな屋敷の扉が開く。
「ただいまー」
一人の少女が入ってきた。
恐らく、彼女の家なのだろう。
中学生くらいに見えるが、年齢に対して妙に大人びた雰囲気をまとっている。
「ちょっとキョウ! おかえりくらい無いわけ?」
苛立った様子で、目の前の少年に一喝。
帰ってきた自分に何も言わず、ソファーで本を読んでいる姿にカチンときたようだ。
「まあまあ、そんなに怒らないでやってよ。キョウは昔からこういう奴だからさ」
妖精ミラミラが少女をなだめる。
真っ白で足が無く、ふよふよと宙に浮いている姿は、妖精というよりゴーストといったほうがしっくりくる。
「もう! ミラミラがそんなんだから、キョウがおかえりも言えないんじゃない!」
なだめられても尚、少女の苛立ちはおさまらない。常識だ、とでも言いたいのだろうか。
キョウと呼ばれた少年は何かを察したらしく、ばつが悪そうに言った。
「あー......その、悪かった。次から気をつける。改めて、おかえり」
「ただいま」
少女が不機嫌そうに返事をする。
何故かキョウも不機嫌になる。
ミラミラはいたたまれなくなって、ポンッと音を立てながら姿を消してしまった。
気まずい雰囲気が流れる。
ソファー一脚を隔て、それぞれその場に留まったまま。
静寂の中、壁に立て掛けられた大きな鏡にうつる歯車だけは、規則正しくガチャン、ガチャンという音を鳴らし続けていた。
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