さようなら、うさぎさん

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 その人は、ゆっくりとまぶたを震わせながら目を開けた。  うーむ。  目を開けた方が、より綺麗な顔だな、と思いながら、なつのはベッドの上の桐生先生を見つめる。 「……なつの?」 と桐生先生は、初めてその目でなつのを見、初めてその口でなつのの名を呼んだ。  今も、ぎゅっと腕に抱いているうさぎは、もうしゃべらない。  少し寂しく思うなつのに、桐生先生は言った。 「……なつのっ。  身体が動かんっ!」 「十四日も寝てましたからねー」 と岡田が横で苦笑している。 「ああ、この身体で今すぐ、真柴直次の墓を見に行きたいのにっ!」  記念撮影に入れなかったのが、よほど、悔しかったようだ……と思うなつのに桐生先生が言ってくる。 「なつの、抱っこしろっ」 「無理です……」
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