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どうしたの? と言いかけたとき、
「こらっ」
とよく響くなつかしい声が聞こえてきた。
ひっ、と見ると、横断歩道のところに、スーツ姿の桐生先生が立っていた。
交通立哨の当番らしい。
高校も近くなので、こうして出会うときもあるのだ。
「お前ら、新入生だろ。
もっと早く行けよ」
と桐生先生は腰に手をやり、叱ってくる。
この人、人間でもうさぎでも口うるさいな、となつのが苦笑いしたとき、桐生先生が言ってきた。
「中学の三年間は早いぞ。
お前らもあっという間に高校生だ。
心してかかれよ」
はいっ、と言うと、
「そうだ。
仁岡は、うちの高校に来たらどうだ。
うちは日本陸上競技連盟公認の陸上競技場もあるし」
と桐生先生は言ってくる。
どこから聞いたのか、仁岡が陸上部に入ったことを知っているようだ。
桐生先生はそこで、こちらを振り向き、
「なつの、お前もうちの高校にくるか。
……死ぬ気で勉強しろよ」
と厳しい顔で言ってきた。
勉強を見てもらっていたせいで成績もお見通しな桐生先生に言われ、なつのは、うつむきがちに、
「……はい」
と頷いた。
仁岡が笑う。
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