さようなら、うさぎさん

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     あれ以来、うさぎのクッションはしゃべらない。  でも、今でも、やっぱり、なつのの宝物だ。  中学に入って、どっと増えた宿題をやりながら、なつのはベッドの上に、ちんまりと置かれているうさぎを見る。  ふふ、と笑ったあとで、宿題を中断し、つい、祭里に借りたマンガを見ようとしたとき、 「サボるな、小娘」 と声がした。  えっ? と振り返ると、そこには誰もいなかった。  ただ、うさぎのクッションだけがある。  思わず、立ち上がり近づいたが、当たり前だが、うさぎのクッションはなにも言わなかった。  幻聴か。  今までずっと、先生に見張られながら勉強してたからな、と思いながら、 「えい」 と桐生先生が入っていたときのように、うるさいこと言わないよう、うさぎの顔を壁に向けて置きかえてみた。  すると、 「なにをするっ。  前が見えぬではないかっ。  無礼者っ」 とうさぎがしゃべり出した。  うそっ、となつのは、うさぎを抱きかかえる。  うさぎのクッションはなつのに向かい、言い出した。 「小娘、我の(めい)に従え。  さすれば、よき事があるであろうっ」  今度はなんの花が咲くんだろうな……と苦笑しながら、なつのは、また向きを変えて壁際に置いてみた。
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