第2話 将の格

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「今日は危なかったですね」  その後、軍議は何事もなく終了し、小助と共に各地から参集した諸将に用意された二の丸の宿舎に戻る道すがら、勝悟は何げなく溜め込んだ危惧を吐き出した。  小助は夕日に照らされた高遠の山々を見上げている。やがて視線はそのままに、ぽつりとつぶやいた。 「勝資様は一生懸命やっておられる。武田が滅びぬように、どうしたら他国の成長に負けないか、それだけを考えているのだ。だからこそ他国の情勢分析では、敵国の当主の性格まで考え抜いた精緻な目を持っておられるのに、お味方の中では感情の行きどころを見逃される。そんなことにかまっていられない程、他国の脅威は大きいのだろう」  小助は自分の才能を信じて引き上げてくれた勝資に恩があるため、どうしても勝資寄りの気持ちが強い。この思いが悪い方に進まなければ良いがと、勝悟は危惧した。 「いずれにしても鬼美濃殿のとりなしで、思案通り進みました。後は猿啄城攻略に全力を尽くすのみですね」  不安を振り払って勝悟は明るい口調で言ったつもりだったが、意に反して小助は浮かない顔をする。 「何か気に掛かりますか?」  すかさず勝悟は小助の心中を尋ねた。 「その馬場殿だが、わしにはあのお方の真意がよく分からぬ」  意外な言葉が小助の口から洩れた。 「それはどのような点においてですか?」  勝悟は小助に再度尋ねた。  小助は言いづらそうな顔で、勝悟の顔を見た。 「構いませぬ。言ってください」  勝悟は自分のことではないかという予感に包まれながら、小助に全てを打ち明けるように頼んだ。
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