第2話 将の格

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「変幻自在の信房殿ゆえに、あまり言葉通りに捉えてない方がよいぞ」 「と言いますと?」  昌景の言葉の奥にある意味が分からなくて、勝悟は訊きなおした。 「お主は今や武田の進む方向を示す水先案内人の役目を負うておる。その意味ではお館様や太郎様、勝頼様もお主を信頼している。ただ、お主の策は甲斐の田舎者にとっては、いささか過激な節がある。特に甲斐の利益を最優先に考えてきた輩にとっては、お主を邪魔に思う者もおる。そういう輩からお主を庇おうとしているようにも思える」 「はあ」  なぜ自分のしていることが、甲斐の利益を損なうのか分かりかねて、勝悟は納得のいかない顔で昌景を見る。 「お主は甲斐育ちではないから分からぬかもしれんが、甲斐の者は今川というよりも駿府に対して、拭いきれない引け目を感じておるのだ。まあ田舎者のひがみみたいなものだと思ってくれ。だが今や軍事的に逆転し、力でその引け目を覆せそうなときに、お主は阻止した。唯一の機会を封じられて、残念に思う者も多いと言うことだ」 「なんと狭量な。そんなことでは、とても天下に号令をかけることなどできません」 「そうなのだろうな。だが人間の気持ちは理だけで測ることは難しい。お主にもそこは理解してあげて欲しいと、わしは思う」  勝悟はハッとした。まさに今日勝資に感じた同じことを、自分は無意識の内に頭の中に展開していたのだ。 「気をつけます」  反省の言葉を口にし、元気をなくす様子を見て、昌景は大きな笑い声で勝悟を励ます。 「まあ、さほど気にすることはない。今日来たのは別件じゃ。こちらの動きを察知したのか、猿啄城に変化があった。河尻秀隆に代わって、羽柴秀吉という者が城主になったということだ」  豊臣秀吉!  日本史上に燦然と輝くその名を聞き、勝悟の心は激しく踊った。
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