465人が本棚に入れています
本棚に追加
「ところでわしは時々忍びで駿府に行っておるのだが、街に凄まじい勢いを感じた。駿府の民には自分の生を楽しむ明るさがある。古府中もそうありたいと思っておるのだが」
元々明るい性格の義信には、駿府の都会的で華やかな雰囲気が余程気に入ったのだろう。
楽しそうに語る姿に、勝悟は一抹の不安を感じた。
「確かに平和な世であれば駿府の施政は理想的だと思います。しかし今は戦乱の世です。駿府の発展は、武田の兵士たちが流した血の上に成り立っていることを、忘れてはなりません」
つい、家中の年寄りたちのいうようなセリフを言ってしまった。
ところが、義信は顔を引き締めて、感銘したかのように頷いた。
「お主の言う通りだ。実は嶺松院も同じことを言ってたよ。今川の発展は武田の犠牲の上にあると。実際に氏真殿に資金を融通してもらって、戦で夫を失った女たちの働き口を作るために、高遠に機織り所を作り始めたようだ。母親が働く間、子供たちの面倒をみる場所も作り始めている。やがては甲斐にも同じものを作ると張り切っておる」
単なるお姫様だと思っていた嶺松院の意外な行動力に、勝悟は目を見張った。今川の血筋は戦以上に施政に関しての才能と意欲が、尋常ではなく強いようだ。いずれにしてもこのようにして育った子供たちが今川に恩を感じ、武田と今川の結びつきを嬉しく思うことで、今後の両国の関係はより強固になる。
最初のコメントを投稿しよう!