第1話 野望の実

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 何と言っても、今や武田は甲斐、信濃の二国に上野半国と美濃の三分の一を領し、遠江を実行支配している大大名だ。制圧した国からの石高だけでも百万石を遥かに超え、兵三万の動員を可能にする。  単純な石高だけではない。  駿府に開いた武田の専売所が、武田をさらなる超大国に変えた。  天才的な商才を持つ土屋十兵衛長安(ながやす)の手によって、主力製品である信州紬を始めとした甲斐、信濃の特産物販売は、開所以来の増収増益を続けていた。  その主要因は、全国の消費者ニーズをマーケットリサーチした適正な値付けと、商品値崩れを防ぐ販売量の微妙な調整に有った。  情報収集には跡部勝資(あとべかつすけ)配下の三ツ者の働きが大きかったが、集まった膨大な情報を元に損益分岐点を見極め、今後の販売戦略につなげる長安の分析能力こそ、現代のコンサルタントファームも顔負けの稀有なものだと、勝悟は大きく評価している。  現在、専売所から上がる利益は武田領の総石高に匹敵し、それにより武田軍団の動員兵力は倍の六万人を可能とした。  加えて専売所の開設は武田の軍装備も一新した。特に今まで入手できなかった、南蛮気道用のクロスや、クロスボウ(洋弓銃)、そして最新の鎧などが、専売所経由で大量入荷した。これらを武田軍の兵士に支給することによって、武田の兵制は大きく変わり、より速くより強力になった。
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