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そしてこれらの施策の仕掛け人が勝悟であった。
富士山の噴火によって二十一世紀の世界から、この世界に漂流した勝悟であったが、自らの力で歴史を創る手応えにすっかり魅了され、ホームシックを感じることなどなかった。
襖が開き、信玄が大広間に入場した。
集まった諸将の間に緊張が走る。
昨年の遠江防衛戦後に開かれたのを最後に、武田家の全重臣を集めた会議は行われていない。それだけに、それぞれがこれから始まる話の内容に、期待と不安を感じても不思議ではない。
「この一年で当家を取り巻く状況は大きく変わった」
信玄の少ししゃがれた低い声が、重々しく大広間に広がる。
「甲斐、信濃から始まり今は上野、美濃まで領土を広げ、遠江には軍を駐留させた。我が武田の勢力はこの三年で大きく広がった」
その間に信玄は勝悟の献策を取り入れ、領土の中心となる高遠城に本拠を移し、各地への道を整備し、軍の機動性を充実させている。それだけではなく、甲斐は嫡男の武田義信、上野は馬場信春、北信濃は高坂昌信、美濃と飛騨は武田勝頼が、それぞれ軍事に関する独立行動権を持って統治している。
また遠江駐留軍の司令官である山県昌景には、軍権だけではなく今川との外交も一任されていて、両国の相互成長に大きな影響を及ぼしていた。
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