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「我らは西に向かう」
周囲にどよめきが漏れた。
西には足利義昭を将軍に奉じ、上洛した織田信長が畿内を中心に勢力を拡大していた。
既に抑えた国は、尾張、美濃に加え、山城、南近江、伊勢、志摩、伊賀、大和、摂津、河内、和泉の十一か国に及び、その総石高は三百万石を超える。
加えて堺、草津、大津など有力港湾都市を直轄地とし、そこから上がる膨大な矢銭が織田家の膨大な軍事費を支えた。
その動員兵力は織田家単独で武田の三倍にあたる十八万人。これに同盟国である徳川と浅井のそれぞれ一万人の兵士が加わる。
「それは大戦になりますな。しかし、信長は将軍を奉戴している。そこはどう折り合いをつけますか?」
西上野を任されている馬場信春が、興奮気味の諸将を制して一番の懸念を口にした。
これに対し、信玄は側近の跡部勝資に説明せよと、目で促した。
「ここに将軍足利義昭様からの御内書が届いている。この中には、織田信長の独断専行を指摘し、上洛して信長を討つべしとある」
再び諸将の間にどよめきが起こった。
それを鎮めるかのように、小幡昌盛が口を開いた。
昌盛はこの年四六才になる歴戦の将で、今は高坂昌信の腹心として、海津城の副将を務めている。
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