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クイーンラッキーエアリス 3
「すぐに迎撃の準備をする! アンジェリィ、結界の重ねがけは——」
「魔力が足りないから無理だぉ。でも、今夜一晩なにもなければ明日応援を集めて連れてくるぉ!」
「よし! シシリィ、お前は町にいる冒険者をかき集めろ! ベリアーヌは指揮だ! 俺はアンジェリィと王都に戻って騎士団を連れてくる! エルン、この辺りのことは詳しいな? 万が一の時迎撃に適した場所なんかをシシリィとベリアーヌに教えてやってくれ!」
「っ! は、はい!」
テキパキと指示を飛ばしたギルマスは、迷宮を出るなりアンジェリィと王都に転移して行った。
エルンとシシリィは指示通りにベリアーヌとともに、トリニィの町へと向かう。
まずはシシリィがトリニィの町の冒険者ギルドで、集まっていた冒険者の情報を確認する。
トリニィの町も魔獣大量発生は初めてではない。
だからある程度は備えがある。
対応も早くできた。
だが——。
「ベヒーモス、だと……」
「そうよ。さいじょーかいにいるあのめーきゅーのおさはベヒーモス。アタシのトッシンでもビクともしないで」
「危険度赤、難易度10の魔獣ですね。ドラゴン級が、よもや他にもいるなんて」
ギルド内ではどよめきが走った。
リエマユの語った迷宮の長。
現時点であの迷宮は八十層ほどの階層を有している。
その一層一層が危険度赤、難易度8レベルの魔獣一体が守護しているが、あの迷宮の主はベヒーモス。
危険度赤、難易度10に設定されている十種の魔獣のうちの一つ。
「ま! アタシがじょそーありのホンキでトッシンかましたら穴あかしてやるけどね!」
「い、いや、やらなくていいよ。そんなことしたらリエマユも怪我するんだろ?」
「……マア、そうやね」
「じゃあいいよ、そんなことしなくって」
「そ、そう?」
さすが危険度赤、難易度10のクイーンラッキーエアリス。
めちゃくちゃ好戦的。
(でも、いくらカテゴリランクが同じでも、やっぱりクイーンラッキーエアリスとベヒーモスじゃあ色々違うもんな)
世界に危険度赤、難易度10の魔獣は十種類認定されているが、その中でもベヒーモスは陸の王、レヴィアサンは海の王、ドラゴンは空の王と、すべてが『王級』。
クイーンラッキーエアリスはまさしくその名の通り『女王』ではあるものの、それは人間が戦うことを前提としたカテゴライズ。
魔獣同士が戦うとしたら、おそらくクイーンラッキーエアリスは『王級』最弱だろう。
言ったら怒られそうなので、絶対言わないけれど。
その陸の王が、魔獣たちを上に集めて戦力を整えている。
「知性が高い、ということでしょうか?」
「そうやで。どんくらいか前だけどな、我らが親神、創星神タパロン様から『これからは積極的に“ヒト”を滅し、女神エレメンタルプリシスを現世に引き摺り出す』って神託があったんや」
「なんだと!?」
「魔獣たちにも、創星神タパロンから神託とかあるんだ!?」
「レベルが50いじょーになると、固有スキルもあるで」
「「な、なんだってーーー!」」
「そ、そうなんですか!?」
リエマユのおかげで誰も知らなかった魔獣の生態が、次々に明かされる。
『魔獣博士』のレベルを上げていたエルンにとっては、どの情報も興味深い。
けれど、それ以上にリエマユのもたらす情報は“ヒト”類にとって有益なものばかりだ。
たとえば、迷宮が生まれた時に層のボスとなるものには、もれなく固有スキルが与えられる。
たとえば、ヒト類が定めている危険度赤、難易度10の魔獣十種は魔獣界だと“十壁”と呼ばれる文字通りヒト類に対する最強の壁。
固有名はないが、倒されても複数生まれることはなく、たった一体だけ倒された記憶を有したまま新しい肉体を迷宮を介して創星神タパロンに与えられ、再誕する。
クイーンラッキーエアリス——リエマユはその“十壁”の中で唯一“再誕”していない最年長。
また、ベヒーモスはおそらく再誕したばかりの個体。
再誕直後は肉体のレベルがまだ高くなく、“ヒト”類を喰らうことで前の個体のレベルまで近づけたいのだろう、とのこと。
つまり——。
「魔獣大量発生は、主に『十壁』が再誕した肉体レベルを強化するために画策される、ということですか?」
「せやで」
「なんということだなっ……!」
テーブルを殴るベリアーヌ。
トリニィのギルド内に集まっていた冒険者たちも、息を呑んだ。
これまで発生理由がわからなかった魔獣大量発生は、意図的に引き起こされていた。
クイーンラッキーエアリス——リエマユは、ボスの部屋にランダム出現という固有スキルを持っている。
基本的に、そんなクイーンを倒せる人間のパーティーは存在しない。
どんなに装備を整えてきても四、五人のパーティーでドラゴン級の強さを持つクイーンラッキーエアリスを倒す術はないに等しいからだ。
冒険者パーティーを倒すと、クイーンはその部屋から強制転移させられる。
そうして世界中の迷宮のボス部屋を行き渡り、数多の冒険者を屠ってきた。
そこで様々な情報を得ていたら、迷宮の魔獣も外へ出る術があることを知る。
それが魔獣大量発生。
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