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町を守るために 2
なんでエルンがお貴族様の娘を連れてきたのか。
そりゃあ、わけもわからないだろう。
迂闊なことも言えないから、固まる他ない三人。
「あ、あの、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
事情を一から説明すると、最初、エルンの活躍の部分は嬉しそうに聞いてくれた彼らも魔獣大量発生が起こりそう、というところまでくると顔つきが変わる。
みんな不安げに顔を見合わせたあと、大将が「そういうことなら、こっちだ」と宿の裏手にある食糧庫へ二人を案内してくれた。
「各々、家の中に最低限の備蓄はあるはずだが、うちの食糧庫は町になにかあった時用に常に多目に備蓄がある。それと、同じように食糧庫の中に特別製の井戸があってな。他の地下水路とは違う水路を使ってるから、表の井戸になにかあってもこっちは使えるって寸法よ」
「素晴らしいです! 王都でもなかなか見ない設計ですが、ふむふむ、これは見習うべきところが多いですね! 侵入者防止用の防御結界はもとより、地面からの侵入にも備えて床も石造になっており、倉庫の外はねずみ返し、万が一に備えて石材により地面より高い場所に造られている……素晴らしい!」
「おお、そこまでわかってくれるか! そうなんだ!」
エルンには見慣れた食糧庫だが、そんな細やかな仕組みがたくさんあったとは思わなかった。
ほえー、と口を開ける。
シシリィが倉庫の中も「素晴らしい! これは耐火性が高い炎陽樹が使用されているのですね!」とさらに食糧庫を褒めてくれた。
知識が豊富な人だと思っていたが、よもや建築関係まで明るいとはすごすぎる。
(俺、こんな人の隣に、本当に立てるのかな……)
どんどん自信がなくなっていく。
「なあなあ、あの子すげーしすげー可愛いな」
「あ、う、うん」
話しかけてきたのは幼馴染のナット。
シシリィのことをベタ褒めだ。
「俺のスキルが珍しいって、見つけてくれたのもシシリィさんなんだ」
「え! ……そうか、あの子がお前のスキルのことを見つけてくれた“王都のギルドの受付嬢”なのか。やっぱり王都にいる人はすごいんだな」
「うん、王都は本当にすごいところだよ。学ぶべきものがたくさあるし、学んでも学んでも……学べば学ぶほど自分の無知っぷりがわかるというか」
「お、おお……」
「シシリィさんも、俺と同い年くらいなのに『剣聖見習い』でもあるし」
「マジで!?」
「俺なんか本当に田舎のダメなガキだなって、思うよ……」
「お、おお……」
そう。
知識や技術を身につければつけるほどにシシリィのすごさ、優秀さがわかる。
優しく、かわいらしく、細やかな配慮ができるだけでなく、彼女は本当にすごい人なのだ。
自分の中の“やりたいこと”のイメージでは、彼女と肩を並べて迷宮を進む自分が浮かんだが、今の自分では到底彼女の足元にも及ばない。
ならばせめて彼女になにかお礼がしたいと思う。
しかし、そのお礼が思いつかない。
どうしたら彼女に恩返しができるのだろう。
(【限界突破】のスキルで『巫女見習い』の上限を上げて以来、特になにもしてないしなぁ!)
あれはエルンの【限界突破】がどのような効果を発揮するか調べるために、実験も兼ねて行われたものだ。
とても恩返しとは呼べない。
あれ以降シシリィから頼まれる事柄は、主に簡単なエルンにもできる範囲の些細な仕事ばかり。
(あれ、俺もしかしてギルド職員としてもまだ『研修職員』の扱い——!?)
気づかなくていいことに気づいてしまった。
「来なさい、ジェッツ!」
シシリィが倉庫の前で召喚したのはタータではなくアーク・コンドルという鳥型の魔獣。
ジェッツというネームのそれは羽ばたいて食糧庫の屋根の上に留まる。
「魔獣!?」
「召喚獣っていうんだ。『魔獣使い』の職業スキルで、テイムした魔獣を影に潜ませて必要な時に召喚できるんだよ。俺も一体テイムして、今影の中にいるんだ」
「へ、へええ、あの子『魔獣使い』の職業も持ってるのか。すげーな、本当に。でもあの魔獣なんなんだ?」
「アーク・コンドルだな。視力がものすごくいいんだけど、アーク・コンドルは夜行性で夜目も利くんだ。主な主食は腐肉や死肉で、鳥だけど鼻がいいんだ」
「へぇ〜。魔獣に詳しくなってるなエルン」
「あ、うん」
一応『魔獣博士』の職業も持っている。
まだまだ勉強中の身ではあるが、だんだんと役に立つことが増えてきたように思う。
「ジェッツには夜間の食糧庫警備をお願いします。ジェッツは普通にレベルが高いので、弱い鳥型魔獣が襲ってきてもなんとかしてくれるでしょう」
「コオオオァン」
「はい、よろしくお願いします、ジェッツ。頼りにしていますね」
「キュオオオォン!」
強い信頼だ。
タータといい、シシリィの『魔獣使い』としてのレベルはエルンより高いだろう。
(あ、いや、俺そもそもまだ『魔獣使い見習い』しか持ってなかった……)
レベル以前の問題である。
「ですが、食糧自体は想定よりも少ないです。魔獣大量発生が起これば、より多くの冒険者や騎士団がこの町を拠点にします。ことが起きてから王都より食糧を転送して運び込むよりも、備えられるのであれば備えましょう!」
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