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諦めない、諦めたくない
「っあ……す、すごい」
「でしょう? その代わりアンジェリィお姉さんの魔力は空っぽだぉ」
「えええええっ」
「まあ魔力自動回復があるからしばらく待ってほしいぉ」
その間に、他の冒険者たちが次々に下へ降りて残りの魔獣を退治していく。
(これなら、もしかして……!)
町を捨てなくてもいいかもしれない。
期待を抱いたのも束の間だ。
「第四派が来たぞ!」
「くそ! もう、だと!?」
先陣を切っていた冒険者が叫ぶ。
同じような魔獣の波が押し寄せているのが見える。
アンジェリィの魔力はまだ回復していない。
「やはり騎士団の協力が不可欠です! 父さん、騎士団は——!」
「“調査すて検討する”だ、そうだ。連中の“調査”が終わるまでは俺たちで持ち堪えるしかねぇ! エルン、そのためにもお前の【限界突破】スキルだ!」
「へ!?」
「儂の『剣士見習い』の上限レベルを30まで上げてくれ!」
「は、はい? はい!」
迷っている時間はない。
手を握り、ギルマスの『剣士見習い』のレベルを30へ上げる。
意味がわからないが、すぐになにかを察したシシリィからも「わたしの『剣士見習い』と『巫女見習い』もお願いします!」と頼まれた。
混乱していたが、シシリィの手を握ると別な緊張感から逆に冷静になり、ギルマスの言わんとしていることが理解できてくる。
全体の底上げだ。
「よし、アンジェリィ、お前も『魔法使い見習い』の上限レベルを上げてもらえ!」
「へ? は、はあ……? よ、よろしくぉ?」
「はい!」
特に『剣聖見習い』や『賢者見習い』など、あと一息で前人未到の領域に届く者たちは、あるいはその領域に踏み込むかもしれない。
一人一人の『見習い』を【限界突破】で上限アップしていく。
幸い魔獣には事欠かない。
瞬く間に上限に到達するので、その都度また、上限を更新していった。
「応援第二陣、到着しました!」
「エナさん!」
エナトトスと十人ほどのエルフ獣人の冒険者。
そして、怪我を治して再び参戦するトリニィの外から来た冒険者たち。
そんな中、トリニィの町の冒険者たちものろのろと駆けつけた。
「デ、デンゴたちは!?」
どうやら王都の冒険者ギルドから応援が来たのを聞きつけたらしい。
彼らが望むのはデンゴたち。
町の英雄の帰還を望み、きっと彼らがいれば戦える。
だが——。
「……デンゴたちは来ない。あいつらは『あんな田舎町、どうなろうと知ったこっちゃねぇ』だとよ」
「——!?」
トリニィの冒険者たちが膝から崩れ落ちる。
エルンもギルマスの言葉に愕然とした。
町の英雄が、町を見捨てたのだ。
エルンが憧れた、この町の人のために戦う英雄。
強く、人に頼られる最強の冒険者。
「しかも奴らは騎士団に『大したことはない』『トリニィの町の知り合いが、冒険者ギルドが大袈裟に騒いでる』と吹聴しやがった」
「!? そ、そんな!」
「下の奴らには言うなよ。……あんな様子じゃ、本当にやる気をなくしちまう。げ、嘘だろ、もう闇キノコ生やしてやがる」
「…………」
トリニィの町がこんなことになっているのに。
町の英雄が、町の悲惨な状況を知りもしないで、見捨てるどころかより状況を悪化させるような真似を——。
「アンジェリィさん! 魔力はまだ溜まりませんか!?」
「そろそろきつくなってきたんだけどぉーーー!」
「ごめーん、あと三十分くらい頑張ってほしいぉ〜」
「「「無理ーーー!」」」
下から悲痛な声。
仕方ねぇ、とギルマスが下へと飛び降りる。
長剣と短剣の二刀流で、サクサク魔獣を斬っていく。
その周りを凄まじい速度で飛び回るリエマユ。
他の冒険者たちも「ギルマス働かせて負けてられねーぞ!」と気合を入れ直す。
「エルン! アタシも『獣戦士見習い』の上限を上げてくれ!」
「は、はい!」
「わたしもレベル上限に到達しました! エルンさん、『巫女見習い』の上限を40まで上げてください!」
「は、はい!」
ベリアーヌとシシリィの見習い職の上限をまた解放。
そのあとはギルマスとアンジェリィ、エナやティアにもそれを繰り返す。
「でかいのが来るぞ!」
「!」
ギルマスの声に外壁の下を見ると、モーヴキングの群れ。
一頭でも厄介なのに、それが数十頭の群れで押し寄せてくるのだ。
「ま、まずい! あっちからビッグボアの群れも来たぞ!」
「チィ! シシリィ! 儂とモーヴの群れを迎え撃て! ベリアーヌと他の者はボアの群れ! 遠距離組はその他だ!」
「はい!」
「任せろ!」
「うちもモーヴの方へいく!」
「エルンさん、回復系の職業はお持ちですか!? そちらをメインにして回復や弓士たちのバフをお願いします!」
「わ、わかりました!」
シシリィが降りていく直前に指示してくれたおかげで、エルンはシシリィのあとを引き継ぐ。
未だかつてない大きな音。
そして、数十頭の群れが左右から回り込むように町へ突進してくる。
「上からもくるぞ!」
「くっ!」
「!」
弓士の一人が空を指さす。
ギガティックホークの群れだ。
ギガティックホーク——超大型鳥型魔獣。
肉食で、生きたままの獲物を鋭い爪と嘴で喰らう。
弓士や魔法使いの必死の応戦も、数体しか落とすことができない。
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