そのあと

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そのあと

ヤーマーギーィィッシ…、 ヤーマーギーィィッシ…、 ヤマギシーッ、ヤマギシーッ ヤマギシッ、ヤマギシッ ヤマギシーーーーーィッ! ヤマギシーーーーーィッ! 尋常じゃない声が、 学校全部を包み込み、 ずっとずっと響き続ける。 生徒も教職員たちも とんでもないことが起きたとすぐわかった。 ヤマギシーーーーーッ ヤマギシーーーーーッ ヤマギシッ、ヤマギシッ ヤーマーギーシーーッ ヤーマーギーシーーッ 止まりそうのない声、血を吐き出してる声。 何人かの職員が屋上に駆け上がって、哭き喚き続ける少年を抱き抱えようとする。 ヤマギシーーーーーッ ヤマギシーーーーーッ ヤマギシーーーーーッ ヤーマーギーシーーーーーッ! "太宰、落ち着け、太宰。" "太宰、やめろ、もうやめろ。" 救急車の音、パトカーの音。 サイレン サイレン サイレン 少年は大人たちを振り払う。 這いつくばって、なおまだ哭く。 ヤーマーギーッッシーーー! ヤーマーギーッッシーーー! ヤーマーギーッッシーーー! "太宰、太宰、もうやめてくれ。" 掛けられた手を払うそのとき、地べたに尖る錆びた刃に手が届いてしまった。 折れたカッターの刃先。 少年は迷わす自分の左指を切り裂いた。 ヤーマーギーシーーー! ヤーマーギーシーーー! ユビキリィッッ! ゆびきりしようっ!! ゆびきりしてくれえぇぇっ! ヤマギシーーーーーーーッ! 迸る血潮。 サイレン サイレン サイレン 駆け上がって来るレスキュー。 力ずくで少年を抱き抱える。 ヤマギシーーーーーーーッ! ヤマギーーシーーーーーッ! ヤマギーーーシーーーーーッ!少年が車に乗せられて送られる。 そして、深い森のような静けさのなか、少女の遺体がそっと包まれて運ばれていった。 そのさまを、オレンジから黄色にかわる光がゆらゆら照らす。 届かなかった、手。 届かなかった、脚。 届かなかった、声。 もし、僕がもっと速く走れてたら、三段飛ばしで階段を駆け上がれるくらい、速く走れてたら、間に合ったのかもしれない。 もし、僕がもっともっと背が伸びてて、長い手を持っていたら、間に合ったのかもしれない もし、僕が もっともっと早く早く 動き出してたら間に合ったのかもしれない もし、僕が、 もっともっともっと 前に ヤマギシを捕まえれてたら、 ヤマギシは… 翔ばなかったかもしれない。 病院に担ぎ込まれた少年は、なかなか退院させてもらえなかった。 声が潰れたこともあるのだが、全く話さなかった。 話しかけると虚ろな瞳。 返事の代わりに果てることが無さそうな涙を流した。 ようやく家に帰れたが、少年は学校には行こうとしなかった。 家のなか。身じろぎもせず。 ただ涙流れるだけの虚ろな目。 半年ほど過ぎたある日、 父親が少年に言った。 新しい町に行こう。 東にしたよ。海も近い。 全然別の町にしたから。 そして虚ろなままの 少年の肩をそっと押さえた。 お前は生きてる。 生きてる 間は 何度でも 仕切り直しができる。 新しく、もう一度 仕切り直して 生きるんだ。 な。 少年が父親の言うことを理解し、納得したかは判らない。 ただそれから、少年は走ったり跳んだり、トレーニングを始め出した。 けれど話すことはやはりなく、涙も枯れないようだった。 少年の一家が町を去った。 少年の一家が越してから、 少女の一家も町を出た。 まるで少年を見送るためにだけ 留まってたかのように、 少年が去ってからすぐのことだった。 少年と少女の詳しい話は、ほんとに二人しか知らないことばかりだったので、町の人も中学校の者も実はわからなかった。 関係者たちがいなくなって みなその話はしなくなり わからないままで送る、が 選ばれた。 そして無かったことのように その話は消えた。 でも、 その壁にだけ証は残ってる。 けれどそれも誰も知らない。 ワレラチカイノシルシ ココニキザム 「チカイはとわにっ、やで。」 グリグリ目玉のヤマギシ。
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